04


 
 事の始まりは、二か月前に遡る。

 家から一番近い高校に適当に進学してから、一か月ほど経った頃だった。その日はたまたま一人で下校していたわけなのだが、家の近くの道の端に小さな段ボールが置いてあった。確か、段ボールは三日ほど前からずっとあった気がする。動物が入っている予感はあったのだが、母親が動物嫌いのため、見ないようにしていたのだ。みんな面倒事に関わりたくないのか、段ボールを一瞥するだけで、足を止める人はいなかった。

 だが、その日は違った。段ボールの前にしゃがみ込んで、中に手を入れている人がいたのだ。

「大丈夫、怖くないよ」
 
 透き通った可愛らしい声が耳に届いた。はっきりとその人を認識した瞬間、俺の目は釘付けになった。

 声と同様に、透き通るようなオレンジ色に近い髪。肩まで伸びた襟足は、くるりとしている。ぱっちりとした大きな瞳は、小さな手で抱きかかえている子猫に向けられている。前髪を留めているピンが、日の光を受けてきらりと光った。紺色のブレザーを着ているあたり、どこかの高校に通っているのだろうか。

 正直、一目惚れだった。我が目を疑いたくなるほどの可愛さだった。

 天使だ。
 
 ドクドクと心臓が鳴っている。

「ずっと一人でここにいたんだね」
 
 聴こえた声に、はっと我に返った。どうやら子猫に夢中になっていて、俺の存在には気付いていないようだ。



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