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 ***

 最寄りの駅に着いたのは、二十三時を少し回った頃だった。

 夜遅くだというのに、道にはまだ人の群れが目立つ。
 
 昔はここも比較的田舎の方だと囁かれていたそうだが、今ではすっかり池袋や新宿と大差ないほどの街並みになり、人が溢れ返っている。

 ダメだ、頭痛が収まらない。

 重い足取りで大通りを歩くこと十分。

 小道に入ってすぐに、僕の住むマンションが見えてきた。

 頭を押さえながら、集合郵便ポストの前に行く。

 中身の片付けは完全に僕の役目になっていて、今日もいつもと変わらずにチラシの束をゴミ箱に投げ入れた。

 そのまま流れるような動作でエレベーターに乗り込み、“5”のボタンを押す。

 何気なく視線を右に流してみると、マンション内に現れた不審者情報の書かれた紙が貼ってあった。

 今月に入って、これで三度目。

 さっさと防犯カメラを設置した方がいいのではないだろうかと思う。

 暇な奴も居るのだなと冷ややかな気持ちが生じたところで、五階に到着した。

 冷たい風に吹かれながら、一番奥にある部屋に入る。

 「ただいま……」

 小さな声で挨拶をしてみたけれど、案の定『おかえり』は返ってこなかった。



 

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