雨雨降れ降れもっと降れ「雨降ってきちゃった…」
窓の外。
どんより曇り、まだ勢いこそないけれど、外の石畳がどんどん黒く染まっていくのが確認できる。
「せっかく黒鋼が私の買い物に付き合う気になったのに」
「俺ぁそんな気になった覚えはねぇがな」
窓際にいる私とは離れ、部屋の出口となるドアのすぐ横の壁にもたれるような形で胡座をかきマガニャンを熱心に読んでいる黒鋼に目をやった。
「…黒鋼」
「ああ?」
「暇」
「俺の知ったことか」
カチン。
「ファイなら絶対かまってくれるのになぁー」
「…………」
ちら。
「って聞いてよ人の話!」
黒鋼はただただマガニャンに熱視線を向けページをめくっていた。
「黒鋼さん?腐っても私達恋人同士ですよね?」
「…まぁ、そうとも言ったな」
「でしたら、"一緒にいれるだけでいいだろ"的な慰めくらいしてほしいんですけど」
初めてマガニャンから顔を上げた。
「アホか」
そしてまた顔を下げる。
「あ、あほ!?」
「アホ。もしくはバカ。そりゃ死んでも治らねぇな」
「ああそう。へーぇ」
雅は黒鋼の元までずかずかと歩いていって、仁王立ちになりそしてマガニャンを取り上げた。
「あってめ!何しやがる!!」
「返してほしくば復唱しなさい」
「ああ!?早く返しやがれ!」
「"生意気言ってすみませんでした"。ハイ!!」
黒鋼の動きが止まった。
そして立ち上がろうと胡座をかいていた足をたてる。
瞬間私はその足の弁慶の泣き所をマガニャンの角で素早く叩いた。
「ってぇーーーー!」
「立つの反則。ほら早く言って。"生意気言ってすみませんでした"!」
「死んでも言わねぇっっ」
「ふぅん、死んでも言わないのね?じゃー次後頭部」
「待て待てちょっと待て!さすがに頭は死ぬだろうが!!」
「じゃあ?」
「…」
マガニャンを高く振りかざした私を制止し、黒鋼は口を頑なに閉ざしてそっぽを向いた。
「おやすみなさい」
「分かった!分かった!」
一応雅はマガニャンを振りかざしたまま停止し、口は十秒カウントを始める。
「5ー、4ー、3ー…」
「な、ま、い、き、言って、す、み、ませ、ん、で、した」
「…まぁ合格。じゃあ…」
「言ったんだから返せよ!!」
「私の心を蔑ませた罰よ」
「てめぇが勝手に蔑んだだけじゃねぇか!!」
あ。
黒鋼は心底困ったという顔をした。
にやり。
雅は心底勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「黒鋼君、君にとっての最大の屈辱とは何かね?」
「…知らん!」
「私をさっきアホに陥れたくっさい言葉を言ってもらいましょうか」
「だから死んでも…」
「死んでも?」
黙りこんでしまった。
よし、完璧に私が勝っている!
「"世界の終わりまでお前と一緒にいる"。心を込めて、ハイ、せーの」
「………」
カツーン
「痛ェ!!」
「ハイ、せーの!」
返してほしくないの?と言わんばかりにマガニャンを上で揺らす雅。
グッと拳に力を込め俯いた黒鋼だったが、覚悟を決めたのか口を開いた。
「世界の終わりまで…ッ」
「たっだいまー。まいったよー、途中で雨降ってきてさぁ。イイ子にしてたー?二人ともー…って」
ドアを開けて帰ってきたのは、サクラと小狼とモコナの三人+一匹でサクラの羽根の探索に行っていたファイ。
その後ろには中を覗き込むサクラと小狼、モコナ。
「黒りん、雅ちゃんにプロポーズ中?ごめんねぇーお邪魔しちゃってーーーー」
「ち、違っ」
「だって世界の終わりまで…って言ってたじゃなーい。ねぇモコナ、サクラちゃん、小狼君?」
「あ、あの」
「確かにそう聞こえたのーー!」
「すいません…」
いずれも合っている。
ただ、プロポーズではないのだが。
「違ーよ!世界の終わりまで追っかけて頭かち割ってやるって…」
ガツーン!
「ッッてぇーーーー!!!!」
再び私は黒鋼の弁慶の泣き所を攻撃し、身を翻した。
「てめぇ!返せーーーー!!」
「ちゃんと言えなかったから没収」
「畜生がーー!」
その言葉にムカつきを覚えた私はとどめにポイと窓から雨の降ってる外に放り出してやった。
「雨雨降れ降れもっと降れ!マガニャンなんか流しちまえーーーーーー!!」
「ちくしょう」
「##NAME1##ちゃん寂しかったんだよきっとーー」
「知るか」
夕暮れ時、雨もおさまった頃。
びしょびしょぐしゃぐしゃに濡れたマガニャンを恨めしそうに見つめながら黒鋼は言った。
雅はファイに代わり夕飯の支度中である。
「大体、今日のあいつに晩飯作らせたら何入ってるか知れたもんじゃねぇ。お前らグルか?」
「あはは、まさかーーー」
「でも黒様、愛されてるよーー、すごく」
「……」
「マガニャンにも嫉妬させるなんてさすがーーって感じ」
「……ふん」
まんざらでもないような顔の黒鋼。
ただその夜ご飯、黒鋼の席には牛乳しか置いていなかった。
(了)
[*prev] [next#]
[しおりを挟む]