言葉にしないけど分かってよいつまで喧嘩してるのさ。
ファイに、言われた。
きっと、ファイは黒鋼にも言ったんだろう。
けれどあたし達の距離は変わらず、ギクシャクとした空気が無情にも一週間は続いたまま。
一週間前の喧嘩から仲直りをしない理由、それは恐らくお互いに同じ。
謝りたくないのだ。
「醤油」
「……ん」
「ん」
会話は最低限。
物を渡すときも、肌と肌は触れ合わないように。
目すら合わせない。
食卓を囲んでいる私と黒鋼を除いた人数分のため息が聞こえた。
「意地っ張りなんですね、二人とも」
「あ?」
「何言ってんのサクラ」
サクラの呟きに同時に反応してしまったことにこれまた同時に咳払いをすると、小狼がクスリと笑った。
それを横目に見たあと黒鋼を見やると、あいつもこっちを見ていて思わずそらす。
そのあたし達の一部始終を見ていたらしいファイがたまらず声を上げて笑いだした。
「二人とも、さっきから同じ動きしてるよー」
息ぴったりーー、と言うファイにあたし達は箸を置き、それぞれ自室に戻った。
許してないわけじゃない。
むしろ、一週間もまともに口を聞いていないから早く話したい、声を聞きたい、見つめあいたい。
でもあたしの性格のひとつである負けず嫌いの強がりが邪魔をして、素直に"ごめんなさい"のたった一言が言えないのだ。
こういうときは過去に少なからずあった。
それをどうやって切り抜けてきたかも忘れていて、だけど謝りたくないあたし達だからきっと謝らずに乗り越えたんだと思う。
…そろそろ、皆に迷惑かけるよね。
あたし達の勝手で迷惑かけるのも嫌だと思ったあたしはおもむろに立ち上がり、部屋を出て、あいつの部屋に行くことにした。
……で、来たけど。
『……』
何にも話さないまま、時が過ぎていく。
「あの…」
「何だ」
「……やっぱり、何でもない」
互いに背中を向けて座っている。
互いに何かを言い出そうとする。
だが、その先が見えないのだ。
「…」
こんなに近くにいるのに、恋しくなるなんて。
黒鋼も同じ気持ちでいてくれてるのかな?
淡い期待を秘めながら、振り向いてはしばらく間近で見ていなかった広い背中を見る。
触りたいなぁ、ぎゅってしたいなぁ。
胸が恋しさで狭くなっていって、つぶれそうになる。
「……!」
黒鋼が背中を強張らせた。
耐えきれなくなって、あたしが黒鋼の背に寄りかかったから。
「おい、」
「…謝んないよ、あたし」
「……」
「謝んないけど」
分かってくれるでしょ。
(了)
※お題配布元…恋したくなるお題 様
[*prev] [next#]
[しおりを挟む]