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2019/01/07
鳥羽・伏見パロ67(完結) old...



傍観者



 山崎は自らの痕跡を残すことを厭う。写真やビデオといった媒体に限らず、人の記憶に残ることすら違和感を覚える。
 人間が嫌いかというとそうではない。仲間内でわいわいと騒ぐのは好きだ。それに真選組自体を、山崎は好いている。
 しかし時々、本当に時々だが、それを外から見ている自分に気づく。
 罵り合い小競り合いをする沖田と土方、振られて泣きながら帰ってくる近藤、隊士たちの雑談。それをただ眺めているだけの自分がいる。決して彼らと交わらず会話には相づちだけ。そんな自分に気づいた瞬間、山崎は何故か安堵すら覚えるのだった。
「別に人と慣れ合うのが嫌いって訳じゃないんです。俺がいなくても会話が回るのとかも地味にヘコみますし。なのに、何ででしょうね」
「地味にヘコむってお前もともと地味じゃねェか」
 ちゃんと話聞いて下さいよぉ、と絡む酔っ払いを鬱陶しく思いながら銀時は手元の酒を煽った。
 銀時が店に来た時、たまたま山崎が先にカウンターで呑んでいた。これは奢らせるチャンスとばかりに隣に座ったのが運の尽き。仕事の愚痴やら何やらを延々と聞かされて今に至る。
「俺のいない世界に安心するっていうか。でも、仲間とは一緒にいたいっていうか。矛盾してるのは分かってるんですけど」
 思考回路が底の見えない螺旋地獄に迷い込んでしまったということか。銀時は面倒くさいと感じているのを隠そうともせずに頭を掻いた。
「あのなぁ、そりゃテメェが臆病モンなだけだろうが」
 銀時の言葉に山崎が赤らんだ顔を上げた。目の焦点が合っていない。もうこいつは限界なんじゃ無かろうか。
「人と関わって深く知るのが怖ェ。ただそんだけだろ」
 覚えのある感情だった。人と親しくしたい。親しくしたくない。相反する気持ちが綯い交ぜになる感覚。結局は怖いのだ。相手を知って、懐に入れて、失くすのが。
「人との絆を背負ってくのが怖ェ。失くすのが怖ェ。てめーは無意識の内に予防線張ってんだよ。手遅れになんねーようにってな」 カランと音を立てて空になった銚子が倒れる。酒で焦点がぼやけていた山崎の目が、徐々に銀時へと結ばれていく。
「旦那も、ですか」
 とっさに否定できなかった。自分も相当酒が回っているらしい。
「んじゃ、先人として一言言ってやるよ」
 ごまかすように銀時は手元の猪口に残った酒をグイと飲み干した。
「怖ェって気づいた時点で、とっくに手遅れだ」
 ここ奢れよ、と付け足して、銀時は店の親仁にあいそを告げた。
 山崎はしばらくぼんやりしていたが、やがてその顔色を変えた。
「旦那、それってつまり……」
「本気で変わりてェってんなら、自分から一歩踏み出すこった」
 ここからは山崎自身の問題だ。銀時は立ち入れない。絶望すら窺えるその表情を見て、銀時は軽く笑った。
「ま、無駄なあがきだと思うぜ? あいつら相手じゃ」
 知りたくなくても、気がついたら人の心にズカズカと勝手に入り込んでくる。そんな連中。自分にも居たからこそ分かる。
「旦那は……旦那は、怖くないんですか?」
 縋るような目が立ち上がった銀時を見上げてくる。その顔に酔いは残っていない。
「そのために、こいつがあんだろうが」
 銀時は腰の木刀に手を当てた。
 それに対して山崎は何も言わなかった。何も言わず、ただ深く頭を下げた。
 その後は知らない。銀時が会計を山崎に任せて店を出たからだ。
 ただ、数日後に真選組の連中を見かけた。またドンパチやってたらしい。沖田と土方に無茶な要求でも突きつけられたのか、山崎は何やら彼らに言い返していた。その顔は不満の表情を浮かべていたが、どこか晴れ晴れとしていた。


《終》



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