いざよふ

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必ずいるパンフ要員




「近江屋跡発見!」
「石碑しかない…だと…!」

車通りも多ければ人通りも多い歩道の上で、二人の青年がデジカメ片手に騒いでいた。どうやらどちらが先に史跡を見つけられるか競っていたらしい。銀髪の方が悔しげに地団駄を踏んだ。

「騒ぐな。小学生か」
「今で言うとそこん歩道の上で斬られたらしいのう」
「ほう、ではかの龍馬はまさにここで…」

後から追いついた二人も石碑に辿り着くとあれやこれやとその場で喋りだす。銀髪の青年と眼帯の青年二人は相変わらず石碑に絡みつくようにして、順番にポーズをキメながらシャッターを切っている。

「こら、もっと端に寄りなさい。迷惑ですよ」

それを更に後ろからやってきた一人の男がたしなめた。眼帯の青年がぱっと振り向いて男に駆け寄る。

「松陽先生、一緒に写りましょう。おい辰馬撮れ」
「あっテメッ俺は放置か!オイ!」






大学で日本史の講義をしている教授、吉田松陽のゼミには四人しか学生がいない。それゆえ、合宿をするのにかかる資金もそう多くなくて済む。そこをつけ込むようにして、ゼミ生である銀時は今夏の京都合宿を提案したのだった。まるで私塾にでも通っているかのような気軽さである。
松陽は元々各地を巡る事が好きだったし、ゼミ生の事も上から甘いと言われる程好いていた。一番の専門としている江戸時代末期を辿るような、いわば旅行を許可せぬ訳もなく。こうして五人は京都へ三泊ほど留まる事になったのだった。

「…そろそろ切り上げて、お風呂にしますか?」

旅館の一室。壁にかかった時計を見上げて松陽は言った。彼を中心にして大きなテーブルに向かい、本日の調査レポートを書いていた四人のゼミ生はがばりと顔を上げる。達成感に満ち溢れた顔の銀時が、ぽいとシャーペンを放った。

「ナイスジャスト!」
「俺ァもっと前に終わってたがな」
「うるせーよお前は速さと引き換えに丁寧さを失ってんだろうが。読めねーよお前の字」
「テメェよかマシだろ」
「俺は元々ヘタクソなんですぅ。ヘタクソなりに丁寧に書いてますぅ」
「開き直りやがって…」
「先生、ここには露天風呂があると聞きました」
「寺のライトアップがそりゃあ綺麗に見えるそうじゃ」
「それはいいですね。折角なのでお風呂の後、みんなで見に行きましょう」
「おおっ!そうと決まりゃあ浴衣ば用意しないかんのう!浴衣さんや〜」
「そこの行李の中にあったぞ。それからお前達はさっきから何を揉めてるんだ」

桂が呆れ半分で銀時と高杉を見やった。坂本は行李の中から浴衣を取り出し、せかせかと五人分の風呂の用意をし始める。各々が好き勝手に振る舞うのを、松陽はそれは楽しげに見つめていた。





「こげに美しかもん、久しぶりに見たがじゃあ…」

からんころんと下駄の音を鳴らしながら、多くの人が京の路地を歩いてゆく。その中を浴衣姿の松陽とそのゼミ生も歩いていた。様々な観光スポッのトライトアップに合わせて屋台まで並び、さながら街ぐるみの祭りのようだ。五山の送り火と日を異にしていなければもっと壮大な祭りに会えていたのだろうが、人混みの事を考えれば丁度よかったのかもしれない。
坂本が光に縁取られた一本道を眺めていると後ろから松陽がやって来て、綺麗ですねと頷いた。隣には矢張り桂がいて、…後の二人は屋台をハシゴしているようだ。一見仲が悪そうに見えて、実の所そうでもないのだ、あの二人は。

「久しぶりという事は、前にこれ程のものを見た事があるのですね」
「あっはっは…初恋の人じゃきに…」
「過去をくよくよと。だから貴様はモテんのだ」
「何か聞こえたが」
「空耳だ」

松陽がくすくすと笑うと、二人も顔を見合せて笑顔を見せた。

やがて銀時と高杉が、林檎飴やらお面やら綿菓子やら金魚やらを目一杯腕に抱えて戻って来た。相当遠くまで漁りに行っていたようだ。特に高杉の射的の腕はなかなかのものらしく、景品を羨ましがる子供達が後をついて来ていた。

「何だガキ。欲しいのか?」
「……」

こくりと頷く子供達に、高杉はにやりと口角を上げるとその場でしゃがみ込んだ。腕の中の玩具を見せる。

「…どれが欲しい。言ってみろ」

子供向けアニメのフィギュアからゲームソフトまで。高杉が子供用の射的でどれだけ大人げない買い占めをしたかが窺える。が、高杉自身興味があったのは射的というものそれのみであり、景品など貰った所で使いようがない。子供達はぱっと顔を明るくすると口々に玩具を指差してゆく。

「あーあー一斉に言っても分かりゃしねーよ。それ全部やるからお前らで分けな」

両手に抱えた玩具を全て子供達に押しつけると、高杉は立ち上がって浴衣の埃を払い、行こうぜと歩き出した。その背中を四人はじっと見つめる。

「…お前らで分けな」
「ドヤァ…」
「行こうぜ」

銀時がぽつりと真似ると、桂と坂本も迫真の演技(五割増し)で続けた。それが自分達の演技ながら予想外にウケたらしく、三人は腹を押さえながら声にならない笑声を上げる。真似を繰り返しつつ、終いにはうずくまってしまった彼らを道端に置き、松陽は高杉を呼び止めた。

「晋助。君は優しい子ですね。師として、私はそれを誇りに思います」

高杉は驚いた顔をすると、次に頬を赤く染め、最後に首を傾けた。

「先生、何そんな笑ってんですか」




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