いざよふ

http://nanos.jp/izayou/

 学生というのはとかく面倒くさい。毎日同じ時間に学校へ行き、同じ輩の顔を拝み、教師の話す退屈な話をただ黙って聞かなければならない。
 それを我慢した所で誰に誉められるわけでもないし、オマケにテストなんてものすら付随してくる。ああ、本当に面倒くさい。
「あー、フけてぇ」
 ダルそうに歩く高杉がボヤくと、途端に頭上へと級友の拳骨が降りかかってきた。
「何をテスト最終日にボヤいてる。グズグズしてないで行くぞ」
「うっせえぞヅラァ。テストなんて受けたって何の得にもなりゃしねェじゃねェか」
「ヅラじゃない桂だ。そろそろ出席日数もヤバいだろう。この辺で心を入れ替えたらどうだ」
 ずるずると引きずられるようにして校門をくぐると、同じように坂本に引きずられる坂田の姿があった。どうやら奴も捕獲されてきたらしい。
「おお! 高杉にヅラじゃなかか!」
「おいおい晋ちゃん。けーっきょく捕まってんじゃねェか。昨日はヅラの奇襲なんて屁でもネェっつってたのに」
「うるせえ。お前はどうだってんだ。バカ本巻くなんざ鼻くそほじっててもできるっつってたろうが」
「ハッハッハッ、朝から元気じゃのう」
 引きずられながらも会話する2人の頭上で、坂本の脳天気な声が響いた。仲良くねェとなおもギャアギャア騒ぐ坂田と高杉に、桂が怒りを隠そうともせずに2人を怒鳴りつけた。
「お前たち、往生際が悪いぞ! それから高杉、ヅラじゃない桂だ!」
 幼なじみのいつもの台詞を、高杉はうんざりと聞き流した。
「ヅラっぽい頭してんだ。もう名前もヅラでいいじゃねェか」
「おお、確かにそうじゃ」
「たまにはいいこと言うじゃねーか、高杉」
 たまにはとはどういうことだ、と高杉が言い返すよりも先に、桂によって顔面から下駄箱に叩きつけられた。
「ヅラじゃない地毛だ!」
「……言いてェことはそれだけか」
 高杉は赤くなった額をさすりながら桂の襟首をつかみあげた。
「コラコラおんしら、これからテストがあるのを忘れとらんか? 喧嘩はテストの後にゆっくりしとーせ」
 坂本が高杉と桂の頭をがっしりと掴み、2人を引き剥がす。しぶしぶ手を離したが、お互いにまだ睨み合ったままだ。
 そんな彼らをしり目に、坂田は1人黙々と携帯をいじっている。
「あ」
 何か見つけたのか、坂田が小さく声を上げた。
「こないだ松陽先生が買ってきてくれたケーキ屋、一時間千円で食べ放題やってやがる!」
 先生とは、彼らの――坂本は除く――そろばん塾の先生だ。先日、知人に貰ったものが美味しかったからと塾生全員にケーキを配ってくれた。高杉も美味しかったことは覚えているが、坂田は店名まで覚えていたらしい。
「しかもこれ今日までじゃねェか! やべー俺ちょっと行ってくる!」
「またんか銀時!今から期末テストだと何度言えば分かる!」
「そうじゃ!テストが終わったらみんなでいかんか? わしもいっぺん食べてみたいがじゃ」
 そういえば坂本は塾生ではないので食べていないのだった。気怠げに上履きへと履き替えながら、高杉は先生も誘ったら来るだろうかとぼんやり考えた。
「辰馬。そういや、こないだ家の手伝いで臨時収入もらったとか言ってなかったか?」
「よう覚えとるの、金時。わしの財布の中にはピッカピカの諭吉さんがいるぜよ」
 坂田が思い出したように坂本へと投げかけた。坂本はそれに対して嬉しそうな顔をしたが、高杉は坂田の目が一瞬光ったのを見逃さなかった。
「っつうわけで、今一番金持ちな辰馬の奢りな」
「おお、助かるぜ。俺今月ピンチなんだ」
「気前がいいな、その言葉に甘えさせてもらおう」
「あっはっはっはっ、泣いていい?」
 そう笑いながら言った坂本の目はすでに涙目だ。
「テストが終わったら校門前に集合でいいな。揃ったら出発しよう」
「あーもうテストとか面倒くせーよ。このままケーキ屋行きてーよ。テストなんか爆発しろ」
 坂田の不毛な呟きを聞きながら、ふと高杉は思い至って携帯を取り出した。慣れた手つきで宛先を選び、メールを送信する。
『テストの後にケーキバイキングに行くことになりました。先生もどうですか?』
 高杉はにやける頬を抑えつつ、他の3人と共に教室へと向かった。


【終】


 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -