いざよふ

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※土ミツです



せめて最後の我が儘を

「知ったこっちゃねぇんだよ。お前のことなんざ」
 そう貴方は言った。最後の我が儘は、やっぱり貴方に届かないのね。こうなることは分かっていたけれど、いざその時が来ると思った以上に辛い。
 けれど私は泣かなかった。泣けばきっと未練が残る。自分も、貴方も。
「仕方ないわね」
 本当に仕方のない人。もっと貪欲に生きてもいいのに。今の自分のように。
 欲しがってくれたなら、この身などすべて貴方に捧げましょう。そう思えるくらい貴方に溺れている。けれど貴方はそれをしない。
 十四郎さんは振り向かなかった。振り向いてほしくなかった。きっと今、私は酷い顔をしているだろうから。明日はきちんと笑って見送るから、今だけは振り向かないで。
 貴方が止まる。ああきっと、彼は振り向いてしまうだろう。だから思わずその背中に取り縋った。
「振り向いちゃ駄目!」
 彼の背中がビクリと震えた。
「振り向いちゃ……駄目……」
――懸けられる命は一つだけだ。
 いつか貴方が言った言葉。
 きっと貴方は、その命を真選組に捧げようと決めたのでしょう。その真選組と自分は、天秤にかけてもいいくらいには好きだったのだと、自惚れてもいいのかしら。
 もしそうだとしたら、自分のことを思ってくれているのだとしたら、もうそれだけで十分だ。
「これで、サヨナラだ」
 貴方がくれた最後の言葉。
 サヨナラ、サヨナラ。私の初恋。
「行ってらっしゃい……」
 去っていく背中はどこまでもまっすぐで、いつまでも振り向くことはなかった。


《終》



 

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