いざよふ

http://nanos.jp/izayou/
2011


↑new↓old




01.18
近藤+松平(土→ミツ要素あり)
 結婚をすれば箔が付くとは松平の元上司の言だ。それを理由に見合いだなんだと押し付けられるのは嫌だったが、見合い写真以上に美人な彼女に一目惚れし、強引に口説き落とした。今でもラブだ。
 最初は箔なんて実感が湧かなかったが、独身の馬鹿な部下を持った今なら分かる。
 結婚を一つのステイタスとして捉えている輩のなんと多いことか。結婚が出来ない男は無能だと言わんばかりである。
「っつうことで、近藤。見合いでもなんでもいいから、いい加減身ィ固めろ」
 松平は長官室に来た近藤に見合い写真を突きつけた。
「っつうことでってどういうこと!? とっつぁんこそ自己完結すんの止めてくんない?」
 相変わらず煩いゴリラだ。人がせっかく忠告してやってるというのに。
「それに俺にはお妙さんという心に決めた人が――」
「だったらそいつとでいいから結婚しろ。無理ならこのお嬢さんと見合いしろ」
「いやだからなとっつぁ――」
「お前が無理なら土方でもいいぞ」
 そう言うと今までグダグダと言い訳ばかり垂れ流していた近藤の表情が険しくなった。
「それは駄目だ。あいつにゃ故郷に好きなヤツがいる」
「そりゃ初耳だな」
「多分、ヤツは言わんでしょうよ。はっきり言ったわけでもない。でも、分かるんですよ。何も言わんヤツですが、今でも彼女のことを好いてるって」
 なぜそいつと一緒にならないのかとは、あえて聞かなかった。土方のことだ。また複雑に考えてしまっているのだろう。
「アイツの中にはずっと彼女が居るんです。そんなヤツが結婚して上手くいくわけないでしょうよ」
「それもそうだな」
 松平は見合い写真をデスクの中にしまった。
「まあ、諦めが付いたら紹介してやるよ」
 それにしても面倒な恋愛ばかりするヤツらだ。自分も人のことをあまり言えはしないのだが。
「ああ、見合い話は30過ぎるとパッタリなくなるから、早めに覚悟決めとけ」
「え、マジで!?」





09.13
土方+為五郎
本誌完結前にフライングで書いたのでかなり矛盾があります

「そろそろ、腰を落ち着けたらどうだい」
 柔らかな声が十四郎の耳朶をくすぐる。このままじゃ家の恥だなんだと聞かされた後には特に、その声は優しく響いた。
「それとも、こんな家にはいたくないか」
 盲目の兄が、十四郎の目線の少し下を見ながら問いかけてくる。それがたまらなく辛い。きっと兄の中では、十四郎は未だ幼子なのだ。
「別に、それだけじゃねぇよ」
 唇を尖らせながら言うと、兄は困った顔で笑った。
「お前は本当に、バラガキだねえ」
 兄はそう言うと少し離れた位置にいる十四郎へと手を伸ばし、こちらへおいでと手招いた。
 おずおずと十四郎が近づくと、ペタペタと両の手で十四郎の顔をなぜる。
「ずいぶん大人っぽくなったな。背も伸びたんじゃないか? きっとその内、追い越されてしまうねえ」
 そう言って嬉しそうに笑う兄の笑顔が、十四郎にとって苦痛だった。奪ってしまったものの大きさに押し潰されそうになる。
「もう行く」
 心配はかけたくなかったので出来る限り弾んだ声で兄の手を振りほどいた。その瞬間見せた心配そうな顔に少し嬉しくなって、自らの感情に嫌悪する。
「次はいつ帰ってくるんだい?」
「その内、な」
 居場所が無い苦痛、居場所を作ってくれた恩人を守れなかった苦痛。兄の存在は十四郎に安らぎをもたらしたが、この家に居続けられるほど十四郎は強くはなかった。
「また帰っておいで。何があっても、ここはお前の家だ。だから」
 いってらっしゃい。
 その言葉が、十四郎の聞いた兄の最後の言葉だった。
 流行病だった。十四郎が駆けつけた時にはもう、兄は息をしていなかった。
 その日は泣いたのだったか、啼いたのだったか。今となっては曖昧な記憶しかない。とにかく、みっともない醜態を晒したのは事実だ。
 今は遠い昔を思い出しながら、土方は為五郎の墓の前に膝ついた。
「久しぶり。仕事が忙しくて……って言い訳だな」
 ここに来る時はいつも恐怖を感じる。後ろめたさと申し訳なさで、胸が苦しくなる。
「真選組は順調だ。隊士も増えたし、江戸の連中も、まあ認めてくれてきてる」
 チンピラとしてだけどな、と笑う土方に答えてくれる者はない。
 桶から水を汲み、墓にゆっくり注ぐ。御影石を丹念に磨きながら、土方は語った。今を、過去を、そして未来への展望を。
 ひとしきり墓の掃除が終わり、土方は線香を備え手を合わせた。
「なあ、あんたは誇れるか? こんな俺を」
 強く。ただひたすら強く。それだけを求めた自分を。
「そのまま真っ直ぐ、お往きなさい」
 不意に誰もいないはずの墓地に声がこだました。その懐かしい声に涙すら浮かぶ。
「ああ、分かった」
 顔を上げてもそこには誰も居らず、ただ風が柔らかな草の薫りを土方の元へ運んでくるのみだった。





10.10
銀土風味で銀誕
見廻組編後
 なんだか散々な1日だった。いきなり逮捕されるわ、見廻組の手伝いをさせられるわ、最終的に再び牢屋に逆戻りする所だった。
 銀時は首をコキコキと鳴らしながら真選組の門をくぐった。
「おい、万事屋」
 あと少しでシャバに出られるという所で、不意に剣のある声に呼び止められた。
「んだよ、まだ何かあんのか副長さん」
 銀時がめんどくさそうに振り返ると、突然その眼前に箱を突きつけられた。
「今日のワビだ」
 ずい、と突き出された箱を見てみると、そこには『真選組まんじゅう』と書かれている。
「何これ」
「だからワビだ。とっとけ」
「いやいやいや、こんなもんがワビになると思ってんの? こちとら2回も誤認逮捕されたんだからね。まんじゅうごときで済まされるワケねェだろうが!」
「じゃあ、これは要らねェんだな」
 土方は持っていたまんじゅうの箱をこれ見よがしに眼前で振った。
「いらねえとは言ってねェだろうが。しゃーねーから貰ってやるよ」
 土方から無理やりぶんどると、憐れみのような呆れたような冷たい視線が銀時の体に突き刺さった。
「意地汚ねェのもここまで来るとアホらしいな」
「うるせー。言っとっけど、これで今日のことチャラにできると思うなよ!」
「ああ? 今まんじゅう受け取ったじゃねェか」
「これは今日の分として受け取った訳じゃありませんー。俺の誕生日プレゼントとして受け取ったんですう」
「また適当なこと言いやがって。じゃあテメーの誕生日いつだってんだ」
 どうせその場しのぎの嘘だろうと言わんばかりに、土方は銀時の方へと煙を吐いた。
「10月10日だコノヤロー! 新八や神楽にでも確認してみやがれ」
「はいはい、ワカリマシタ。そこまで威張って言うことじゃねェぞ。ガキか」
 あくまでも顔色1つ変えない目の前の男を殴り倒してやりたい。そう思う気持ちを必死で押さえつけ――でなきゃ今度こそ公務執行妨害で豚箱行きだ――銀時は無理やりに笑みを浮かべた。
「とにかく、今日のことは後日きっちり詫びてもらうからな。断ったらテレビ局と新聞社に不当逮捕の件をリークするからな!」
「やってみろ。俺が握りつぶしてやるよ」
「おまわりさーん。ここに犯罪予告してる極悪人がいまーす!」
「屯所の前でとんでもねェこと叫んでんじゃねェェェェ!」
 銀時も土方も別に本気で言っているわけではない。今回の逮捕も、銀時を見廻組の逆恨みから庇うための一時的な保護目的だということも分かっている。
 それでも互いに礼を言うのは性分に合わない。だからきっと、これでいいのだ。
「ああ、もう。こんなとこで体力使ってる場合じゃねェのによ」
「なんだ。パチンコの新台でも入ったか」
「いや、ジャンプの発売日」
「……もうお前帰れ」
 土方が脱力して煙草を踏み潰す。銀時は真選組まんじゅうを懐にしまいながら、袋くらい用意しとけと心の中で毒ついた。
「ガキどもだって、テメーの帰りを待ってんだろ?」
「あー、まあな」
 真正面から尋ねられると少しくすぐったい。今の表情を土方に見せたくなくて、銀時は真選組に背を向けた。
「じゃあな。仕事しろよ、税金ドロボー」
「テメーこそとっとと職探せよ、プー」
「万事屋はプーじゃねェェェェ!」
 思わず振り返ると、戸惑ったような、何か言いたげな土方の姿があった。
「あ? まだなんかあんのか?」
「まあ、その、なんだ」
 土方は煙草を手の中でもてあそびながら銀時から目を逸らした。
「あー……おめっとさん」
「は?」
 銀時が目をぱちくりを開閉すると、土方は苦々しい表情で吐き捨てた。
「誕生日祝ってやってんだよ!それともやっぱ嘘か!」
「いやいやいや、嘘じゃねーし!ってからしくねェことしてんじゃねえよ。びっくりしたじゃねェか」
 ふん、と鼻を鳴らした土方は、いつも以上に渋い顔だ。もしかして照れているのだろうか。そんな態度を取られたら、何故だかこちらまで気恥ずかしい気分になってくる。
 銀時は再び土方に背を向けて歩き出した。
「しゃあねえからその言葉も受け取ってやらァ!」
 銀時は片手を上げてひらひらと振り、感謝の代わりにした。
 その幸せそうに緩んだ表情は、銀時の背を見送る土方にはついぞ見えることはなかった。





10.31
銀+松陽
金時の所に乗り込む前の話
【じゃあまた】

「ずいぶんと楽しくやってるみたいじゃないですか」
 ああ、これは夢だ。銀時は漠然とそう感じた。
「おかげさまで」
 銀時が笑うと、師も笑った。
「久しぶり」
「本当に、久しぶりですね」
 そう言って懐かしそうに微笑むこの人は、こんなに小さな人だっただろうか。子どもの頃は広かったあの背中が、今はこんなにも儚い。
「あんたもこんな気持ちだったのか? 俺を拾ったとき」
「ええ。きっと、今のあなたと同じです」
 それだけ聞ければいい。これからも師を誇って前へ進める。
「手放したくないですか」
「ああ」
「たとえ彼らが、今の方が幸せだと思っていても?」
「ああ」
 彼らの考えた完全な自分。それと共に笑う人々を見て思ったのだ。ここに居たい。もっともっと、彼らと笑いたい。
「それを聞いて安心しました」
 師は笑って銀時を撫ぜた。子どもの頃に戻ったようで気恥ずかしい。
「なら、行きなさい」
「ああ」
 これはある意味で決別なのだろう。それでも後悔がないのは、忘却ではなく前進するからだ。
「そっちにゃもうしばらく行けそうにねーけど」
「むしろ来たら蹴り飛ばしてやりますよ」
 変わらぬ師に安心した。
「じゃあ、また」
 いつかこの命を使い切った時に。


 

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -