いざよふ

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2010.06〜08

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08.22
カニバリズム注意
【鬼と人の子】






 腹が減った。
 また戦がおきた。もういいかげん、飽きればいいのに。
 ぜんぶぜんぶ燃えてしまった。なにものこっていない。食べるものも、生きてるものも。
 戦場にはいがいと食べものがある。たたかうヤツらのぶん。だから合戦がはじまる前にこっそりとハイシャクしたりしていた。
 けれどこんなのはひさしぶりだ。やけ出されてからはじめてかもしれない。なにもない。ぜんぶない。あるのはただ、人だったものだけ。
 食べものをさがしにきたはずなのに、きづいたらころし合いがはじまって、あわててかくれた。でてきたときにはもうなにもなかった。
 ハラがへった。
 たべなくなってから、どれだけたったっけ。わからない。
 たべものがほしいどこだどこだドコだドコダ。

――あ、あった。

 くらいつくとちのあじがした。


◆◇◆


 目が覚めても腹が減っていた。食料なんて元からない。銀時は刀を握りしめた。
 刀は銃には勝てても戦闘機には敵わない。それでも戦ってきた。まだ守りたいものがあったから。
 それなのに今、幕府は刀を捨てろという。それでもいいと、思った。守るものは全部落としてきた。もはや仲間の生死など誰一人分からない。ならばもう必要ない。
 腹が減った。このままここで死ぬのだろうか。墓地なら誰か死体の始末くらいしてくれるだろう。
――あ。
 ひとがきた。としよりだ。おんなだ。ほねばかりだ。
 食べられるかと一瞬でも考えた自分に苦笑する。自分で思っている以上に限界らしい。
 彼女がやって来たのはちょうど自分が体重を預けていた墓石にだった。供え物にまんじゅうがあるのを見つけ、銀時はその老婆に声をかけた。
「オーイババァ」
 最後の気力を振り絞って声を出す。
「それまんじゅうか?」
 もう獣には落ちたくない。





08.21
かぶき町篇後で銀+次郎長
「ヨォ、退院おめっとさん」
 次郎長が身支度を整えていると、好き勝手散らばった銀髪頭が目に入った。
「てっきり綾乃の方に行ってるかと思ったぜ。何しにきた」
「婆さんなら昨日退院したじゃねェか、耄碌ジジィ。……これ渡しに来たんだよ」
 そう言って不機嫌そうに男が紙切れを手渡してきた。そこには住所らしきものが記されている。
「そこで、テメェの娘が待ってる」
 その声にメモから目の前の男へと視線を移した。次郎長の目は驚きで見開かれている。
「テメェがしでかしたことの落とし前だ。テメェでつけな」
「――なんでここまでしてくれる」
 この男にとって自分は綾乃の敵である。決着がついたからといって彼が世話を焼く義理は毛頭ない。
「テメェのためじゃねェよ。舎弟のためだ」
 その言葉に次郎長は目を見張り、そしてニヤリと笑った。
「ありがとよ」
「いやぁ、礼には及ばねえさ」
 それは本当に突然だった。男の雰囲気が変わったかと思うと、その拳が次郎長の頬にクリーンヒットした。しかも容赦など欠片もない一撃。次郎長の体は吹っ飛び、派手に床に体を打ちつけた。
「これでチャラだ」
 男はニタリと嫌な笑みを浮かべると、それ以上は何も言わずに立ち去った。
「って。傷口開いたらどうしてくれんだ」
 そう口にしてみたものの、気分はどこか晴れやかだ。
 わざわざ相手が回復するまで殴るのを我慢していたのだろう。随分重い拳だった。
「さて、行くか」
 辰五郎との約束(くさり)は、あの男に預けてきた。だからあの日置いてきた約束を、今度こそ果たしに
行こう。


 次郎長は折れた煙管をそっと撫でた。

銀さんは絶対、改めて次郎長のこと殴ってると思うという妄想





08.07
真選組で鳥羽・伏見パロ
 虫の音しか聞こえぬ静かな夜、土方はいつもの隊服を脱ぎ、袴姿で屯所の裏口を出た。
「どこに行かれるおつもりですか」
 出た所で山崎が立ちはだかっていた。気配には気づいていたが、そんなものを気にする土方ではない。
「近藤さんを救出に行く」
 今からひと月程前、攘夷志士によるクーデターが勃発した。それは決して軍事的なものではなかったが、幕府内部が分裂し戦争を起こすには、十分な火種だった。
 そんな中、攘夷政府側が将軍の従兄弟君を大将に据えたことで状況が一変した。
 将軍が攘夷政府側とは戦えぬと、事実上戦争から離脱したのだ。そのことにより幕府側は完全に瓦解、現在ではほとんどの有力役人が攘夷政府側に付いている。事実上、国を牛耳っているのは攘夷政府側となった。
 しかしそれでも幕府を、将軍を捨て置けぬと残ったものもいる。その筆頭が真選組だ。
 ただでさえ攘夷政府の恨みを買っている真選組である。指名手配が全国に回るのには時間はかからなかった。
 真選組は名を変えて将軍の警護に当たっていたが、先日とうとう攘夷政府側に見つかってしまった。その際に近藤は1人降伏し、真選組の他のものを助けてくれるよう嘆願しにいったらしい。
 らしいというのは、土方がちょうどその時、別の部隊と連絡を取るために不在だったせいだ。
 沖田は今現在も別動隊と共に行動している。ならば、近藤を救うために動けるのは土方自身しかいない。
「それであんたが死ぬことになってもですか」
「ああ」
 返事をした瞬間、山崎が土方を思い切り殴りつけた。しかも拳で。あまりの予想外の出来事に、土方は頬を押さえて呆然と立ち尽くした。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってましたが、ここまで馬鹿だとは思いませんでした」
「山崎、テメェ!」
「ふざけんじゃないですよ。なにひとりだけ傷ついてるみたいな顔してんですか。近藤さんが捕まって平気な人間なんて、この隊にいるわけないだろうが!」
「だから、助けに行くって言ってンだろうが!」
 土方は山崎を殴りつけた。しかし、山崎は怯むことなく土方の襟首を掴んだ。
「その間真選組はどうなるんです! アンタがいないと始まらんでしょうが!」
 山崎の声は震えていた。暗くてその表情は見えないが、泣いているのかもしれない。
「近藤さんがいなくなって、ただでさえ隊は動揺してんです。アンタまでいなくなったら、崩壊しますよ」
 土方は山崎の腕を振りほどき、下を向いたその頭に自らの右手を乗せた。
 近藤が捕まったという知らせを受けてから、自分は何をしていたのだろうか。やらなければいけないことをすべてす放り出して陣へ戻り、絶望して、それから。
 何もしていない。それどころか、すべての尻拭いを部下任せにしていた。
「……悪ィ。頭に血ィ昇ってたみてェだ」
 冷静になってみると、土方が行った所で事態が好転するわけではない。むしろ失敗すれば、大将も副将も失い、組は本格的に崩壊してしまう。
 ならば、ここは耐えて近藤の意志を無駄にしないことが先決だ。たとえそれが近藤を見捨てることになろうと。
 土方はギリリと奥歯を噛み締めた。
「近藤さんのとこには、俺が行きます」
 土方の葛藤を見越したように、山崎が告げた。
「山崎、お前――」
「こういうのは、監察の仕事でしょうが。あんたはあんたの仕事をして下さい」
 その顔は笑っているが、瞳には決意が宿っている。
 土方は迷ったが、頷いた。
「……頼む」
 短いようで長い付き合いだ。山崎の意志が揺るがないことくらい知っている。勝算あってのことなのかは分からない。しかし、聞く気もない。
 彼自身が最善だと判断したのだ。ならばそれを信じるのが上司としての役目だ。
「隊士数人、借りますよ」
「ああ。……山崎」
「何ですか?」
「死ぬなよ」
 まだやってもらわなければならないことが山ほどある。真選組はこれからが正念場なのだ。
「副長こそ、下手うたないで下さいよ」
「ぬかせ。俺を誰だと思ってやがる」
 懐から煙草とライターを取り出して、煙を深く吸った。そういえばこんなふうに紫煙をくゆらせるのは久しぶりだ。
「相馬と野村、借りていきます」
「ああ」
 山崎が屋内へ戻っていくのを見送りながら、土方は再び深く煙を吸った。
 これから幕府は更に弱体化していくだろう。それを防ぐためにも横の繋がりをもっと強固にしていかなければならない。
「抗ってやるさ。どこまでもな」
 自分たちの矜恃のために、真選組は戦い続ける。たとえその先に待っているのが破滅だけだとしても。
 空を見上げると、月が明々と土方を見下ろしていた。





07.28
土銀土っぽい
「池田屋ではずいぶん世話になったなぁ」
 そう言われてやっと気づいた。池田屋でいきなり斬りつけてきたアノヤローだ。かなり嫌な斬り合いを仕掛けてくる奴だった。今もあの時と同じ開いた瞳孔で、やる気満々で構えていやがる。
 できれば二度と会いたくなかった。
――あの目がなァ。
 自分の領域を、その短い腕で護りきれると本気で信じている目。濁りがなく、真っ直ぐなあの目が厭だ。
 しかも刀を寄越すとはどういう了見だ。それでフェアにでもなったつもりなのか。
 気を抜いた瞬間、斬りつけられた。避けきれない。相手の強さを見誤った。いろいろと感覚が鈍っているようだ。
 ため息を一つ付く。刀を抜く。懐かしい感触。呑まれそうになる。
 瞬間、奴がまた斬りつけてきた。
 一閃。
 かわす。
 半纏が切れた。
 弁償はしたくねェな。
 斬り捨ててしまおうか。
――あ、ヤベぇ。
 相手の刀を叩き折って、理性を保つ。
「はァい、終了ォ」
 これ以上はやっていられない。血が沸騰するような感覚。
――殺サナケレバ殺サレル。
 今はそんな時ではない。
 相手の刀を折ると少し落ち着いた。肩の傷が痛い。
「…テメェ、情けでもかけたつもりか」
 ああ、うるさいな。ちょっと黙ってろ。
「情けだァ? そんなもんお前にかける位ならご飯にかけるわ。喧嘩ってのはよォ、何かを護るためにやるもんだろが」
 そして護りきれなければ失うのだ。
「…護るって、お前は何護ったってんだ?」
 そんなもの、最初から答えは決まっている。
「俺の武士道(ルール)だ」
 無意味な殺し合いはしない。それは戦場を駆ける前からの理念だ。面倒くさいし虚しくなるだけだ。
 俺はあの人に拾われて、獣から人になったのだ。
 それなのに。
――楽しいと感じてしまった。
「じゃーな」
 できるならば奴には二度と会いたくない。
 俺はまだ人間で居たい。





06.21
近妙
 せっかくのデートを不意にしてしまった。
 ビシッと決めたはずの身なりはボロボロで、何より大切な人を守れなかった。不甲斐ないにもほどがある。
 近藤は地面に伏しながら空を仰いだ。不甲斐無さすぎて涙が出てくる。
「それじゃあ行きましょうか」
「……え?」
 倒れたまま見上げると、たんこぶをハンカチで押さえながら笑う彼女がいた。
「一緒に、行ってくれるんですか?」
「当たり前です。武士の娘に二言はありません」
――ああ、なんて美しい人なのだろう。
 近藤は起き上がりながら改めて思った。
 こんな素晴らしい人は他にはいない。
「その前に、お妙さんは医務室に行かないと駄目ですね。なに、こんだけゴタゴタしたんです。ちょっと寄り道しても間に合いますよ!」
 こんなに素敵な女性とデート出来るのだ。ものにするとかそんなことは今関係ない。同じ時を過ごせるだけで幸せじゃないか。
「そうですね。近藤さんもボロボロみたいですし」
「いやははははは、これくらいかすり傷ですよ!」
 強がって腕を振り回したら思いのほか痛くて、思わず腕を押さえた。
 情けない所を見せてしまったが、彼女が笑ってくれたので万々歳だ。
「私をこんな目に合わせたんです。ディナーくらい奢って頂けるんですよね?」
「も、もちろんです!」
 野球観戦デートができて、ディナーデートまで出来るなんて、今日は厄日なんかじゃない。大安吉日だ!

 その後、近藤は新八の分まで高級レストランのディナーを奢らされ、すっからかんになった。しかしそれからしばらく幸せそうな近藤の姿がしばしば目撃されたという。

公式で近妙フラグ記念に


 

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