いざよふ

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2009


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12.31
※縦読み推奨


よろずやから騒がしい声がする
いま時分だと紅白でも見ているのか
おれは震える体に両腕を回して
となりを歩く副長を見た
しえんをくゆらすその表情は
をにのような顔をしていた

――寒いなら意地張らずにコート着ればいいのに





12.14
銀←さち+政
※政(まさ)はさっちゃん初登場時に捕まってた仲間の片方。名前はアニメ設定から。性格は捏造
「もう止めれば? さっちゃん」
久しぶりに政との仕事を終え、依頼料を分配している時だった。畳の上に置かれた金に手も出さず、政は険しい表情で猿飛を見つめた。
「止める? 今さらこの仕事を止めて、どうしろっていうの」
「仕事の話じゃない。男のことだ」
 彼がなぜ銀さんのことをなぜ知っているのだろう。驚いたがあえて問いただしはしなかった。
「あなたには関係ないじゃない」
 彼はただの仕事仲間だ。プライベートなことまで口出しされる謂われはない。
「叶わぬ男に入れあげて、お前が幸せになれると思えねェ」
「だから何?」
 鬱陶しいと睨みつけるが、それでも政は黙らない。
「さっちゃんを嫌ってる男好きになって、さっちゃんは報われんのかって言ってんだ」
「だから関係ないでしょう!」
 銀さんが自分を好きじゃないのは知っている。銀さんを好きな女が、私の他にいるのも知っている。
 だからいつも怖いのだ。もし誰かが銀さんを奪っていったらと思うと、居てもたってもいられなくなる。
 いっそ諦めてしまえば楽なのは知っている。けれども。
「それでも、それでも私は好きなのよ……」
 立ち上がって流れる涙を袖で拭う。泣きたいくらい好きなのだ。
 たとえいつか、自分意外の誰かを彼が好きになったとしても。
「馬鹿だな、さっちゃんは」
 そう言って頭を撫でる政の手は温かかった。優しい体温にまた涙が流れる。
「ごめんなさい……」
 あなたの優しさを踏みにじって、あなたの気持ちを裏切って。
「私、銀さんのこと愛してるの」
 そしてまた、私は銀さんの傍へと向かうのだ。





11.24
神+新
「本当によかったの?神楽ちゃん」
「これでいいネ」
 神楽は燃える火を見つめながら笑顔を浮かべた。燃やしているのは自分で書いた手紙である。
「パピーは忙しかったアル。いろんな所、飛び回ってる。手紙が返ってきたのはその証拠ネ」
 手紙はあっという間に燃えていく。新八は神楽に気付かれないようにそっとため息をついた。
 今日に限って仕事のため銀時が不在だった。不在だったからこそ見つけてしまったというべきか。銀時がこっそり隠していたらしい宛先不明の手紙。それがダンボールにぎっしり入っていた。
「昔の手紙は恥ずかしいから燃やすヨ」
 そう言った時の神楽の手は、少し震えていた。何とかして励ましてやりたいが言葉が出てこない。
――なんでこんな時にいないんですか!
 心の中で八つ当たる。どうしようもないことなのだと分かってはいるのだけれども。「あの、さ。神楽ちゃん」
「勘違いするなヨ」
 声をかける前に遮られてしまった。
「私は嬉しいネ。銀ちゃんはどうでもいいヤツに気なんか使わないアル。だから、心配してくれたの嬉しいネ」
 そう言って笑った彼女の笑顔は晴れ晴れとしていた。
「でもちょっと悔しいアル。銀ちゃんは全部自分で抱え込んでるのに、私だけ背負われてるみたいヨ」
 頬を膨らまして怒る姿もまた本心なのだろう。彼女は新八が思っている以上に大人だ。
「おいおい、何こんなとこで焚き火なんかしちゃってんの。芋でも焼いてんのか?」
「銀さん!」
「銀ちゃん!」
 火はそれが手紙なのか落ち葉なのか分からないほど燃え尽きていた。もう少し落ち葉を被せれば焼き芋ができそうだ。
「確かまだ芋残ってましたよ」
「焼き芋! 早く取りに行くネ眼鏡!」
「今の流れでなんで眼鏡!?」
「眼鏡が嫌ならコンタクトヨ」
「それもう僕じゃないから!」
「そうだぞー。新八から眼鏡取ったらただの眼鏡置きだろうが」
「僕の価値は眼鏡しかないのかァァァ!!」
 火から離れると冷たい風が新八を襲い、思わず身を震わせた。もうすぐ冬が来る。




10.10
松+銀と銀+桂+坂
「そうだ、名前を聞いてなかったね。教えてくれますか?」
「坂田……銀時……」
 銀時は松陽の背におぶられながら答えた。
「年は?」
「忘れた」
 生きることに必死で、いくつ季節が通り過ぎたのかなど覚えていない。
「誕生日は覚えていますか?」
「タンジョウビ?」
 聞き慣れない言葉に銀時は首を傾げた。
「自分の生まれた日ですよ。最近では数え年ではなく生まれた日に年を数える風習もあるんです」
「ふぅん。で、それ知ってアンタに何の得があるの」
「ありますよ」
 松陽が銀時の方に振り返った。

「あなたが生まれてきたことに感謝できる」

 だから大切なのだと松陽は笑った。そう言って笑った顔を、銀時は未だに忘れていない。
 その後、人は十月十日で生まれてくるものなのだと言って、銀時の誕生日を10月10日に決めた。誕生日が重要だと言った割には決め方が適当だ。
――わりといい加減だったよな、あの人。
 思い出して、少し笑う。先生のことで笑えたことに、自分でも驚きながら。
 少しずつ、少しずつ、思い出になっていく。落書きをして怒られたことも、剣術で誉められたことも、その剣術で一度もかなわなかったことも――……。
――でも、あんたがくれたモンは、ちゃんとここに残ってんぞ。
 刀を振るう理由だとか、誕生日だとか。それから。
「おい、いるか、銀時」
「遊びに来たぞー、金時」
 夜中だというのに万事屋の玄関に人騒がせな声が響く。銀時は思考を中断し、不機嫌な顔で訪問客たちを迎えた。
「だーから、銀時だっつってんだろうが。ってか何しに来やがったこんな夜中に」
「そんなもの、お前の誕生日を祝いに来てやったに決まってるだろう」
「酒も持ってきたし、今日はパーッとやるぜよ、のう」
 銀時は頭をボリボリと掻くと2人を家に入れた。嬉しいような鬱陶しいような、複雑な気分だ。
「お、なんじゃマフラーなんか出して」
 辰馬が銀時の机の上に放り出したままになっていた赤いマフラーを手に取った。汚される前にひったくると、桂がニヤリと笑う。正直、その表情が気持ち悪い。
「ははーん、さては誕生日プレゼントだな」
「ははーんとか古ィんだよ。新八と神楽にもらったんだ」
「そういえばリーダーの姿が見当たらんな」
「あいつなら新八んちだ。はしゃぎ疲れて寝ちまった」
 昼からは新八の道場で銀時の誕生日パーティーが開かれた。マフラーもその時もらったものだ。
 言わなくても察したのか、2人はソファの上に座りテーブルの上に酒瓶を置いた。
「今日は金時の生誕祝いじゃ。パーッと飲むぜよ!」
「おい、銀時。早くコップを用意せんか。飲めぬではないか」
「っつうかオレの誕生日祝う気ねェだろお前ら!!」
 ブツブツ言いながらも銀時は食器棚からコップを3つ取り出した。
 その日呑んだ酒は、いつもより上手く、少しだけ苦かった。


たぶん、松陽先生が銀さんに上げた一番のプレゼントは、人と関わることの尊さだと思う。





9.07
松陽先生(死にネタ注意)
 背中に走る鋭い衝撃。そこがじわりと熱を持ち、松陽の全身へと駆け巡る。
 ああ、斬られたのだと理解した時には、熱が痛みに変わっていた。
 倒れそうになる身体を叱咤して振り向くと、胸にもう一太刀浴びせられた。
――しくじったなぁ。
 痛みで麻痺していく思考の中、松陽はぼんやりと思った。
 松陽を斬った男は自分が倒れたことを確認すると、すぐにその場を立ち去った。ずいぶん場慣れしているようだ。もしかしたら天人だったのかもしれない。
 恐らくもう助からないだろうことは自分で分かっていた。即死していない方が不思議だ。
――きっと、皆泣くでしょうね。
 だがきっと、それでも自分の道を歩いてくれる。そんな確信が松陽にはあった。
 小太郎は真面目だから、感情に任せて突っ走ったりしないだろう。きっとみんなを纏めてくれる。
 晋助は感情に任せながらも理詰めで動くはずだ。持ち前のリーダーシップを生かしてくれる。
 銀時は、きっと最後まで自分の筋を通すだろう。あの子には人を惹きつける魅力もある。
 義助、栄太郎、万吉――……教え子たちの顔が次々に浮かんでは消えた。
――どうか、私のことは忘れてほしい。
 本当はこのまま死んでいくのが不安でたまらない。
 小太郎は感情を抑えすぎてしまわないだろうか。晋助は感情に呑まれてしまわないだろうか。銀時はまた世界を恨みはしないだろうか。義助は、栄太郎は、万吉は。
 自分のせいで彼らが歪んでしまうくらいなら、いっそ忘れてほしい。それが自分勝手な願いだと分かってはいても、望まずにはいられない。

 松陽は最後の力を振り絞って目を開いた。目の前には一面赤く染まった紅葉が、ひらひらとその葉を散らしていた。
「ああ、なんて――……」
 この世界は美しいのだろう。
 松陽は最期に見た光景を目に焼き付けて、ゆっくりと目を閉じた。
 この美しい世界で、彼らが生を紡ぐことを祈りながら。


この世界はなんて醜く美しい






8.29
銀+桂
「髪、伸びてね?」
 銀時は桂の長い髪を手に取りながら言った。
「ああ、元通りだろう」
 桂が珍しく笑った。基本、なに考えてるか分からない無表情なので本当に珍しい。
 彼は数週間前、岡田似蔵によってトレードマークともいえるうざったい長髪をばっさり切られた。それはもう、すっきりするくらいばっさりと。
 それなのに今日会った彼の髪は元通り戻っていた。どうにも腑に落ちない。
 軽く引っ張ってみると尋常ではない痛がり方をした。ますます不思議だ。
「何をするのだ、銀時!」
「ヅラぁ、お前なぁ」
「ヅラじゃない桂だ!」
 お決まりのやり取りに、銀時はため息をついた。そして桂の髪をおもむろに根元から掴むと一気に持ち上げた。
「いやいや、ヅラと変わんねーだろ、これ」
 髪を持ち上げたおかげで覗くうなじの上には、髪に付け毛を継ぎ足している様がはっきり見てとれた。
「ヅラじゃない『えくすてんしょん』だ!」
「馬鹿ですかお前は! ただでさえ鬱陶しいのに更に付け足してどうすんだよ!」
「鬱陶しくない! 桂だ!」
「もうわけわかんねーよ。なんなんだその長髪への飽くなき探求心。どっから湧いてくんだ。っつうかせめて結べよ」
「……先生は、流したままだっただろう」
 言われて初めて、桂の髪の長さが松陽と同じくらいあることに気がついた。
 そういえば子どもの頃、彼は長い髪を結んでいたのだったか。
「馬鹿だろ、おめー」
 桂が笑った。その瞳はどこか遠くを見つめていた。


 
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