いざよふ

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※銀時と出会ってから塾開いた設定。銀時が先生のことを呼び捨てしてます。





一緒に食べよう

 トントントンと、包丁を刻むリズミカルな音が心地よい。コトコトと鳴る鍋からは味噌の香りが漂い、鼻腔をくすぐる。あと少しで完成だ。
「おーい、しょうようー! 飯だぞー!」
 味噌汁を器に注ぎながら、奥で書物を読みふけっているだろう松陽を呼ぶ。分かってはいたが、返事はない。
 銀時は台の上で軽く背伸びをしながら味噌汁に葱を入れると、大きくため息をついた。新しい書物が手に入ると、松陽はいつもこうなのだ。
 エプロンで手を吹きながら松陽のいる部屋の障子を開けると、途端に書物の匂いに包まれる。壁一面を覆う書物棚からあふれる本が、そこら中に積まれており、室内を申し訳程度に照らす行灯には、ほとんど油が残っていない。そんな薄暗い部屋の中で、松陽はただ黙々と書物に向き合っていた。
「おい、松陽!飯だっつってんだろ!」
 銀時が本を書見台から取り上げると、その存在にようやく気づいたのかのように、松陽が顔を上げた。
「おや。もう、そんな時間ですか」
 のほほんと笑うその姿には、苛立ちと共に脱力すら感じる。
「よく何時間もそうやってられんなァ」
 そんなに面白いのかと取り上げた本をパラパラと捲ってみたが、小さい字がぎっしりと詰まったそれは、興味を惹かれるどころか目眩がする。
「そういう銀時だって、この間分厚い雑誌を熱心に読んでいたじゃないですか」
「ジャンプは面白ェからいいの」
 先日、松陽の塾に来ていた門下生の一人が持ってきていたものを初めて読ませてもらったのだが、世の中にはこんな面白いものがあったのと衝撃を受けた。どの漫画もいいところで終わっていたので、続きが気になって仕方ない。
「ってか、飯!冷めんぞ!」
「ああ、そうでした。温かいうちにいただきましょう」
 松陽は銀時から本を受けとると、書見台に再び置き直した。今夜は徹夜してでも読む気なのかもしれない。
「ところで銀時、私のことは先生って呼んでくださいって言いましたよね?」
 行灯の火を消しながら、松陽は恨みがましく銀時の方を睨む。それに対し、銀時は眉間に皺をグッと寄せて唇を尖らせた。先日、塾を開いてからこちら、何かにつけて厳しくなった気がする。
「いいじゃん、別に。呼び方なんてどうでも」
「駄目です。他の門下生に示しが付きません」
 こないだまで良かったのに、と口ごもるように呟くと、松陽はその奔放に跳ねた髪を優しくすいた。
「だって、あなたは私の一番弟子なんですから。兄弟子として、みんなの手本になってほしいんです」
 そう言って微笑む松陽を見ていると、胸の辺りがむずむずしてくる。銀時は好き勝手に跳ねる髪をさらにかき混ぜた。
「ああ、もう! しゃあねェな! 分かったよ、先生!」
 飯が冷めるぞと、吐き捨てるように乱暴に告げ、銀時は松陽に背を向けた。
 松陽は、緩んだ口許を必死で隠す弟子に気づかないフリをして、ひっそりと微笑んだ。
《終》



銀時との出会いで変わっていく先生と、先生に構ってもらいたくて仕方ない銀時って萌えませんか。
先生は銀時が一人でも生きていけるよう、炊事と洗濯は一通り仕込んでるのでは。料理に関しては、先生があまりにも食べない人で、このままだと飢え死にすると危機感を覚えた銀時が、死活問題として料理覚えていってても萌えます。

灰高さん、リクエストありがとうございました。
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