The die is cast


【風邪ひいた。うちに来て】

今朝折原臨也から届いたメールには簡素にそれだけ綴られていた。

だから一丁前に心配もして、わざわざ薬局とかによって薬やらスポーツドリンクなどを買ったのに。

「こんにちは、来ましたよ〜」

いつものように合鍵でドアを開け家に入ると玄関に見知らぬ靴が。おそらく女性用だ。

なんだ臨也さん私以外にも人を呼んだのかと少し胸が痛む。頼られてると思ったのに。まぁその女性と鉢合わせるのも嫌なので2、30分はエントランスにでてまだ知らぬ彼女が出てくるのを待とうかとも考えた時、奥から聞こえる声に違和感を覚えた。

「あっ…!……と…もっ…と!!」

パンパンパンと、何かを打ち付けるような音。想像したくもないがこれはもしかして、嫌違う、だって臨也さんは私の彼氏だ。一応。

考えを振り払い廊下を進む。リビングに近くなるにつれはっきりとしてくる声に耳を塞ぎたくなった。

「あぁっん!!アッアッ!臨也ぁ!もっと!もっと突いてぇえ!あん!…あっ、気持ちッ」

しらないおんながいる。

私の彼氏も。

目があった。

「やっ、激しっ!あっ、イク!イク!イク!やぁぁぁあっっ!!」

「あぅ…っ臨也ぁっ!い、臨也ぁぁあ!ああぁっ!んむっ!んっはぁ…あぁん」

これは何事だ?
彼氏が知らない女を抱いている。目の前で。

しかも私と目の合った彼氏は慌てるどころかニヤリと笑い抱いている女をさらに激しく愛撫し、絶頂へと誘った。そしてトドメと言わんばかりにディープキス。

突然のことに目の前がチカチカする。
これは怒りか?いや違う、今この胸を占めているのは悲しみだった。

あぁ遊ばれていたのか、私は。

彼はきっと私のこの絶望した表情を見たくて私と付き合ったのだ。あぁ、腹立たしい。だがそれ以上に悲しい。何故だろう悲しいのに、涙が出ない。分かることはただ1つ。ここから出ていくことだ。

とにかくここにいたらおかしくなりそうだ。彼もこの顔を見て満足したことだろう。せめて別れ際くらいは強い私で、いつものように。

「あれ、なまえいらっしゃい。ごめんね、風邪っていうのは嘘なんだ」

何て、白々しい。

「そのようですね」

机の上に買ってきたものと合鍵を置く。

「ところで君の彼氏である俺が絶賛浮気中な訳だけど、何か言いたいことはある?」

うわき、ウワキ、浮気…。

彼が私に本気だったことがあるのだろうか、いやないだろう。そうだとしたら彼の気は常に浮ついていたと考えられる。ならばこれは浮気というより、本性を露わにした。の方が正しいかもしれない。

私は気丈にニコリと笑って


「貴方が病気でなくて良かったです」


それだけ言って臨也さんの家を飛び出した。大きく目を見開く貴方の顔が見れていたら、何か変わっていたのかな。


賽は投げられた

(いいえ、賽は捨てられた)

(捨てたのは貴方)

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