毛布/意気地なし/ホットミルクとオリオン座

【毛布】

 最悪だ。この冬一番の寒さを記録しそうだという今日、しかも夕方、部屋のエアコンが壊れた。リモコンのボタンを押しても、コンセントを一度抜いて差し直してみても、うんともすんとも言わない。
「どうしよう……。修理は明日以降だって言われたし、硝子は地方に巻き込まれた一般人の怪我を治しに出張しちゃったし……」
 こういう時、女子が少ないのは本当に困る。先輩は任務だし……。仕方ない。毛布に包まってやり過ごすか……。そう思いながら、寒さで動きの鈍い指先で硝子にメールを送る。硝子はホテルの部屋にいるようで、直ぐに返信が届いた。開いて見てみると、白猫派遣してあげるから存分にモフりなよ。デカいし温かいよ、多分。とある。
 白猫? 硝子、別に猫飼ってないよね? しかもデカい? え? テレビとかでたまに見る、大きく育った猫? わ、分からない……。
 携帯を閉じて、ベッドの上で頭から毛布に包まり直すが、一向に温かくならない。ルーズソックスも履いてみたけど、元々が冷えてしまってるから、足先は冷たいままだ。いっそ、走って来ようかな、とか思い始めた頃、部屋のドアがノックされた。
「へ? えっ、もしかして硝」
「わりぃな、俺だよ」
 そうか、あのメールは硝子のドッキリだったんだ! そう思って勢いよくドアを開け、硝子に抱き付いた。つもりだった。……腕が背中に回り切らない。しかも何かゴツい……? 柔らかくないし、でも、硝子とは違うけど、凄く良い匂いがする。そう思いながら、上から降ってきた声の主を確認した。
「う、わぁっ?!」
「オマエ冷た! 冷え過ぎだろ、ったく。ほら、俺もすっぽり入る特注毛布持って来てやったから部屋入れろよ」
「いや、悟、本当に寒いから。それに、ここ女子寮だし……」
「硝子が俺を指名してきたんだよ。それに、オマエ明日は任務だろ? 寒いと寝れねぇんじゃねーの?」
 言い返せない。しかも、悟が頭から被ってる毛布、真っ白でふわっふわで凄く寝心地良さそうだし、めちゃくちゃあったかい。お願いします……。と悟を部屋に招き入れると、床は寒いし、ベッドの上に座るように誘導した。


【意気地なし】

 俺は今、千載一遇のチャンスを手にした。硝子からメールが届いて、『あの子の部屋のエアコンぶっ壊れたらしいよ。あんた、体温高いし良い毛布とか持ってるだろ? 温めてやれよ』って書いてあって。
 正直、ガッツポーズした。超急いで毛布用意したし、部屋着も暖かくて肌触りの良い物に着替えた。何なら下着も替えた。さっき風呂入ったばっかだけど。で、部屋に入るという第一関門はあっさり突破した。だかしかし。

 好きな女のベッドの上に座るって、これは新手の修行だろ。

「さ、悟……寒い、早く座って……」
「へ。あ、お、おぅ……」
 あああ……! 風呂に入ったばっかじゃん! めちゃくちゃ良い匂いする! コイツ、すっげぇ良い匂いする!
 いや、普段から良い匂いしてるけどさ。硝子が煙草蒸(ふか)すから、相対的に良い匂いに感じるのかもとか思ってたけど。違うわコレ。硝子が居ないと余計に良い匂いに感じる。硝子あいつ、コレが分かってて吸ってるのもあるだろ、絶対。
 ああいや、それより、早く毛布で覆ってやらねぇと。こんなに寒いと、風邪引いちまう。ほら、と頭から俺の毛布を掛けてやると、キョトンとした顔を向けられた。何だ? 俺、変なことしてねぇよな……?
「悟は被らないの?」
「は?」
「いや、だって凄く寒いし……」
「あー……」
 言えねぇ。オマエと一緒の毛布に入ったら、匂い嗅ぎまくりそうだなんて。好きだって告白する前に、変態認定されたくねぇ。でも、確かに寒い。あークソ! どうしたらいいんだよ! 部屋に戻……りたくはない。チャンスなんだ。距離を縮める。だぁー! 俺、意気地なしかよ!
「それ!」
「ぶっ?!」
 頭をガシガシしていると、毛布を被せられてしまった。ギシッとベッドを下りる音に顔を上げると、マグカップに牛乳を注ぐ姿が見える。
「せっかく悟が来てくれたし、ホットミルク作るよ」


【ホットミルクとオリオン座】

 ブーン……とレンジの音が部屋に響き、やがて温めを終えた音が鳴り響く。砂糖入れてもいい? と訊かれ、スプーン二杯分で、と返す。出来上がったホットミルクの入ったマグカップを両手に持つと、お邪魔しますと言いながら、冷たい小さな身体が、俺の脚の間に収まった。
「はぁぁ……あったかい。しあわせ……」
「……ホットミルク、美味いじゃん」
「ほんと? あ、今日、星がよく見えるね」
 冬は空気が綺麗な気がする。そう言いながら窓の外、高専の上に広がる空を見上げて、こくっ、とミルクを飲み下す音を聞く。釣られるように外を見遣ると、確かに夜空を満点の星が覆い尽くしていて美しい。
「ほら、あれ、オリオン座だよ、サトネコちゃん!」
「はぁ? サトネコ? んだよ、それ」
「硝子が、白猫派遣してあげるって。悟が来たから。ふふっ! でもほんと、悟って体温高いし、なんか服とかふわっふわしてるし。ツンツンしてるし猫みたい」
「……にゃーん」
「ツンだけ? デレてはくれないの?」
 残念だなぁ。そう言って、俺の分のマグカップも一緒にテーブルに置いた小さい背中を俺の体で覆う。一瞬、華奢な身体が強張って、怖がらせないようにと、肩に頭を置くと、ぐりぐりと押し付けてやった。
「うわっひゃあ?! ははっ! ちょ、悟ふふっ、擽ったっ、ふふっ!」
「サトネコはお腹空いたにゃー。オリオン座、砂時計みたいだにゃー。そこの棚にカップ麺あるの見えたから食べたいんだけどにゃー」
 それ、デレてるの? そう言って涙が出るくらい笑って言うと、カップ麺を出してくれて。
 ムード無ぇって分かってるけど。とりあえず、抱き付けたから良しとするか。ま、俺は眠れない夜を過ごすんだろうけど。


「二人共、仲が深まったみたいで何よりだな」
 硝子が地方出張から戻った時には、俺はオマエを抱き締めて寝てて、オマエも俺の腕の中で幸せそうに寝てたんだってよ。硝子が写メ送ってくれてさ。
 また、オマエの部屋のエアコン壊れねぇかな。


(次は、星座の知識つけとくからさ)
2022/01/23

#juju版深夜の真剣夢書き60分一本勝負



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