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唇が合わさる距離というものは、視界のぼやける距離である。
相手に目をつむれと言っておきながら自分はつむらないなんて無粋だと怒られそうだ。
自分のものか、名前のものか、キスでしか感じることの出来ない絶妙な反発感のある柔らかさは癖になる。
摩擦の少ない、粘膜と皮膚の中間の感触。
緊張と興奮で腫れぼったくなった唇は濡れて、滑りが良く、その気持ちよい感触を確かめたくてより自分のものを押し付ける。
反射的に、わずかに身を引かれたのが気に喰わず、肩をつかんでいた左手をはなし、耳をつかむ。
親指をくぼみに入れるように、人差し指はまげて耳たぶの後ろにあてて引き寄せる。
ピアス、あけたんかな。
人差し指の腹に妙な感触があった。
やわらかな耳たぶと唇に、脳が満足そうに脈打っている。
そのまま顔をさらに傾けると、ちょうど口の形が噛み合うように重なる。
唇の向こうに歯や歯茎の形がわかる。
もっと、もっと。
知識欲か、それとも性欲か。
自分の中にどこからともなく湧き出る「もっと」という言葉の続きはわからない。
自分が気持ちよくなりたいのはもちろん、彼女にもそうなってほしいという相手の感情を願う気持ちが頭をしめる。
もしかしたら自分は彼女の幸福感を願っているのではなく、感情や感覚に溺れさせてなにも考えられなくなるように、今吉という男のことだけしか考えられなくなるようにと、ただ自分の独占欲をふりかざしてるだけなのかもしれない。
あむあむと、歯を立てるか立てないかで名前の口を数度噛めば、喉のなるような声がわずかにもれたのが聞こえた。
羞恥を感じてか、胸にあてられた手が強く握られる。
シャツごと握られたせいで、指の通った跡がじんと熱い。
服を脱いだら赤い線が5本、いや、さすがに全部の指の跡は残っていないだろうから、3本くらいはのこっているだろうか。

そういえば鼻息もなにも感じない頬に違和感を覚え、一度口を離す。
名前は、はぁ、と息を吸い込んで、少しむせる。

「なんや、息してなかったんか?」

無闇に距離を離そうとするのをゆるさんと、耳を掴む手に少し力を入れる。

「できない」

「鼻があるやん」

「や、いやだよ」

「何恥ずかしがっとるん?わしやったら、そんなん気にせんとなるべく長くしていたいもんやけどなぁ」

まさに、カァ、と頬を染める名前がかわいくて、手を抑えていた右手を頬にそえる。
そしてすかさず唇を合わせようと顔を近づける。
ゆっくりと、噛み合うような角度で。
今度は舌を入れようか。
先ほどのぬるぬるとした摩擦や、口内から溢れる熱の感覚を思い出すと、いてもたってもいられない。
ごくり、ばれないようにつばを飲む。
余計なことなんて考えなくていい。
そんなこと考えてる暇なんてなくしてやりたい。
快楽をしって、与えられるものに酔いしれて、最後には自分から求めてくれば最高。

体の反射で、わずかににじんだ彼女涙を、頬から手を離さないように親指でぬぐう。

快楽は麻薬だ。
中毒性がございますってね。

ふれた唇に理想通りの感触を感じ、大満足で自分の熱を唇の隙間からねじこむ。

ああ結局、自分にあるのはただの独占欲じゃないか。
笑ってしまいそうになりながら、もうほとんどされるがままの彼女をそのままそっと布団へ押し倒した。




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