律の右手がそっと魔王の腕を掴む。 それが積極的になることができない律にとって精一杯の甘え方だった。 「まお、さ、ま……欲しい、で……ああっ!」 言い終わらない内に、魔王の屹立が一気に貫いた。 律は声にならない声で喉を震わせた。 魔王が今までの繊細な前戯とは裏腹に一拍も置かず激しく腰を動かす。 「あっあっあっ、んぁっあ、あんっんんっあ、あぁっはぁ、は……っ」 猛烈な攻めに律の身体はただ揺さぶられるだけだった。 最奥を突かれると律は無意識に衝撃から逃れようとぎゅっと目を瞑り身体を丸める。 結合部から漏れる水音が耳すらも犯した。 今まで体験したことのない気持ち良さと息をつく間もない激しさに、律はおかしくなってしまいそうだった。 どうか早くこの熱を放ってしまいたいと思った時。 ふわり、と花の香りが鼻腔を抜けていった。 (これ……魔王様の匂いだ) 徐に目を開くと、紫水晶の瞳が律を見つめていた。 灯りの揺らめきによって瞳の輝きが変わり、本物の宝石のようにきらめいていた。 しかし美しさと共に今は欲望も同居している。 欲情した雄の目に自分が映し出されている。 それだけで律は背筋がゾクゾクした。 もっと自分に発情してほしい、自分だけを見てほしいと律は魔王の頬に手を沿わせた。 魔王はその手を握りしめると、律の左目をべろりと舐め上げた。 「ひゃっあ、あっ、な、なに」 「宝石みたいな瞳だ。俺と同じ色なのにお前のは輝いて見える」 それはまさしく律が魔王に抱いていたことで、一瞬心が読まれたのかと驚いた。 しかし本当に美しいのは魔王の方だ、という言葉は口づけに呑まれてしまう。 同時に一層律動は激しくなり、手で少し自身を擦られただけで律は絶頂を迎えた。 その衝動により内壁は屹立をぎちぎちに締め付け、魔王も遅れて達した。 もう指一本動かせない。 律はそう表現してもいいほど疲労困憊していた。 行為で体力を消耗したこともあるが、一番は緊張で気を張っていたせいだろう。 うとうとしていると、素早く身支度した魔王が律を抱き上げた。 「魔王、様?」 「疲れただろう。寝ていろ」 「で、も……どこに、いくんです、か?」 「風呂だ」 本来は魔王に風呂まで連れて行ってもらうなんてことを律はさせない。だが、今は気を抜けば眠ってしまいそうで、せめて身体を洗い終わるまではなんとか意識を保つことにした。 足早に湯殿に着くと、魔王は早速律の身体を清める。 全身に湯をかけてから、後孔に指を二本挿し込んだ。 その感触に律は眠気もなんのその飛び起きた。 「やっやぁ、魔王、さっ……や、だっ」 これには魔王も驚く。 単に中に放った精液を掻き出そうとしたまでだが、律は踊るように身体を弓なりに反らせたからだ。 先程達したものの、奥の良いところを突かれ続けた律の後孔は今や敏感な性感帯に変わっていた。 だからひくひくと収縮し魔王の指を飲み込もうとしているのだ。 連日結婚式の準備で気疲れしていた律を一回だけで休ませてやろうと考えていた魔王は、思わぬ据え膳に内心柄にもなく喜んだ。 こうして魔王と律の長い長い初夜が始まった。 夫婦生活初日から寝込むことになった律は別の意味で不調だった。 割れるような腰の痛さもさることながら、心臓が破れそうなくらい痛いのだ。 (だめだ、魔王様の顔見れないよ。絶対変な表情になる!) 行為中見た魔王の欲に塗れた雄臭い顔つきが脳裏をちらついて離れないのだ。 身体を気遣ってもらったためあれからまだまともに顔を合わせていないため、魔王を目の前にした時に自分がどうなってしまうのだろうかと律はぶるりと身震いした。 静まれとコントロールしようとすればするほど、あの時のことが鮮明になってくる。 風呂場でははしたないくらい乱れたことまで思い出し身悶えた。 (今、魔王様見たら襲い掛かっちゃいそうで怖い!) 律がそう思ったのは実に魔王がドアノブを捻る五秒前のことだった。 END. << |