「魔王陛下、王妃陛下、ご成婚誠におめでとうございます」

その台詞を何度掛けられたことか律はよく覚えていない。
魔王にプロポーズされ挙式に至るまで流されるままだった。
国民への顔見せや、衣装、儀式、等々忙しさに目を回した。
ようやく一息つけたのは所謂初夜と呼ばれる時間であった。
寝台に横になりゆっくりできる、と思ったのも束の間。
覆い被さってきた魔王が耳元でいいか?と囁いて、律はようやく新妻としての役割を思い出したのだ。

「あ、あの僕……じゅ、準備が」
「大丈夫だ。俺に任せろ」

何とかして一度この場の雰囲気を払拭しようと言い訳を始めるものの、あやす様に口づけされれば思考さえも蕩けてしまう。
間接照明で照らされ香が漂う室内、寝台の上には風呂上りで艶々した新婚夫婦。
その完璧すぎる状況に律は逃げれないと顔を蒼くした。



律にはセックスに対してあまりいいイメージはなかった。
初めての行為は辛く苦しいものだった。
それに律にとっては魔王しか知らないが、魔王にとっては大勢の中の一人で、誰かと――特にコウのような煌びやかな人――比べられるのかもしれないと思えば怖くもあった。
恋人同士の間にそういうことがなかったわけではない。
最後までとはならなかったものの、じゃれあいのようなことはしていた。
しかし律はその時でさえも内心不安で仕方がなかったのだ。
もし深い関係になってから幻滅されるようなことがあれば、想像するだけで律は震え上がった。

そんな律の気持ちとは裏腹に、魔王の手は止まらない。
ガウンをするりと脱がすとその胸の飾りを舐め上げた。

「ひゃあっ……あ……んん……っ」

丹念に舌で転がすとぷくり、と膨らむ。
それがベッドサイドで揺らめくランプの灯りに照らされた真っ白な肌と相俟ってぞくりと身震いする程、淫靡だった。
律の肌に魔王は指を滑らした。
芸術品を愛でるようにゆっくり下腹部から太もも、ふくらはぎまでくるとかかとを掬い上げる。
そうして足の裏を舌で優しく愛撫した。

「ふあっ……や!魔王さ、ま、そこは汚ぁ、やっやぁっ」

いつもとは違う感覚に律は身を捩らせる。
足の指一本、一本を丁寧に舐られると電撃が走り律自身に直結した。

「やっな、何でっ、や、やだぁ……あぁっ」

足を舐められて興奮してしまう自分に律は酷く動揺した。
見なくとも自身がぴくぴく反応してしまっているのがわかる。

(こんなの変態だ!やだやだやだ)

湧き出た羞恥心が口元とそそり立っている自身を手で覆い隠させた。
今更ながら感じている自分を知られたくなかったのだ。
けれど魔王はそれを許さないと言うかのように、律の左腿を持ち上げ抑え込んだ。
それから律自身を隠している手を舐め始めた。
指と指の間をぐいぐい割るように舌を這わせ、唇で優しく食む。
魔王の舌が時々隙間から性器まで届くとどんどん手の守りが緩んでいく。
ついに決壊し、律のそれが露になると魔王は躊躇なく銜え込んだ。

「ああっ……ゃ、そん、な……すぐ、いっちゃ、あぁっ」

最早声を抑えることも忘れ、律は魔王の口淫にただ喘いだ。
裏筋を舐め上げられるだけで達しそうになるのを必死で堪える。
強烈な快楽に右足はシーツを掻き乱すように突っ張った。
しかし亀頭を優しく舐め回されてから、ちゅっと吸い上げられた瞬間、押し留めていた物が崩れた。

「ああぁっ!だめ、出る!い、く……っ!」

律のそこから白濁が迸ると、全てを出し切ろうと意志に関係なく腰が揺れた。
魔王はその間一度も口を離すことなく、全て飲み干した。
脳天が痺れるような快感にぐったりしていると、後孔に指が挿された。
その指先にはいつの間に用意したのか香油がたっぷりと使われていて、痛みを感じることはなかった。
長い指が内壁を探るようになぞっていく。
緩慢な動きでも充分に潤っているそこからはいやらしい音が響き、呼応するかのように中に入っている指を締め付けた。
掻き回されている内に律自身の根元の裏側あたりを指が掠めた。
すると突然目の前で火花がバチバチと飛び交い、脳髄がショートした。

「ここが、気持ち良いか?」

魔王はしてやったりと言った表情で、巧みに律の良いところを攻め立てる。
律はそこをこりこり押し潰される度に身体を跳ねさせた。
指が三本まで入る頃には、強すぎる刺激に涙を零しながら息を荒げていた。
達してしまいそうなくらい熱は高まっているのに、あと一息足りない。
と、触れられていないのに先走りでとろとろに濡れた自身に手が伸びる。
途端に魔王は指を引き抜いてしまった。
思わず縋るように覆い被さる男を見ると、律の乱れた髪を梳き額に優しく唇を寄せる。

「もう入れるぞ」

涙を吸い取りながら魔王はそう囁いた。
行為の最中、ちらりと見えた魔王の物はあまりにも大きく、律は改めてひとつになることに恐怖を覚えていた。
しかしそれすらも超える程、今は興奮していた。
欲情した瞳で見つめられながら優しく口づけをされ、後孔に熱い塊を擦り付けられると、この人に愛されたいと律の全てが訴えた。

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