平凡な高校生だった僕、高石律はある日突然異世界ユグドラシルにトリップした。
命を落としかけたり、恋をしたり、人間ではなくなったりと色々あった。
そうして神子として、それから魔王様の恋人ととしてこの世界に留まり魔王様の城、フヴェル城に住み始めてから随分経つ。
まだまだこちらの世界には馴染めないけれど、日々努力している。

とは言っても、魔王様は公務でとても忙しく、僕も僕でこの世界を勉強する毎日だ。
勉強して、それ以外の時間は一人でぼうっとする、そんなことを繰り返していると段々と虚しさが募ってきた。
よくよく考えれば、僕は魔王様以外話し相手がいないことに気付いた。
侍女さんや、家庭教師の人と一緒にいることが多いけれど、会話を交わすことはない。
僕が質問しても言葉で返さず行動で示すと言った感じだ。
やはり、魔族になったとは言え元は人間だったし、人間から魔族になった異端児という扱いなのかもしれない。

今更ショックを受ける。
けれど、だからと言って立ち止まっていたらずっとこのままだし、この世界に残ると決めたのは他でもない、僕自身だ。
今まで何もかも中途半端で諦めてきたけれど、魔王様のことは絶対に諦めたくない。

一息つくと、復習をするため机に向かった。
とにかく一日でも早く、この世界の住人としての知識をつけないと。
気合を込めて羽ペンを手に取った時だった。

「りっちゃん」

語尾にハートマークでも付きそうな猫撫で声で突如話しかけられ、僕は5ミリ程飛び上がった。
心臓をバクバクさせながら振り返ると、銀色の艶やかな髪を持つ人が真後ろに立っていた。

「フォ、フォ、フォラス、さん!?い、いつから、いたんですか……?」
「え?さっきだよ?ね、それよりも今暇でしょ?暇だよね!」

音も立てずに急に現れた彼は相変わらず距離感のない接し方で、僕は眼前に迫る美形に仰け反った。
と、目の前に掌サイズの機械を突き出された。

「これ見て?これ!これさあ、りっちゃんが持ってたケータイってやつ?あれを分解したり何やかんやして同じようなの作ってみたの。やっぱ俺って天才だよね!ね、ね、どう?同じ感じになってる?」

ぐいぐいと無理矢理手に持たされたそれは、確かに携帯のような、それにしてはゴシックな装飾がゴテゴテしていて質量も倍ぐらいあるけれど、実際触ってみると携帯電話として機能していた。

「わあ、これすごいですね!電話もメールも……あ、ネットも繋げる!」
「でしょ!?俺、最早天才通り越して奇跡の存在になっちゃった?あ、それからここ見て!このアプリ!」

指された箇所を見ると、青い小鳥のマークがあった。

「Boyaitar……?あれ?これって向こうの世界にもあったような……」
「そうなんだよ!ってか何かわかんないけど色んな世界と繋がってるみたい」
「へえ、そうなん……え、えええええ!?」

僕は驚きの余り、携帯をぽろっと落としてしまった。
それに対してフォラスさんが悲鳴を上げたけど、暫く混乱で僕は動けずにいた。
正気に戻った時、こってり絞られたけれど、この携帯はまだ試作品だから実験も兼ねてあげると言われた。
久しぶりに触れる現代機器に、僕は少し浮つきながらもBoyaitarを起動させた。
色んな人のぼやきを見ていると、ついつい自分もやってみたくなって登録までしてしまった。



「律……最近楽しそうだな」

想いが通じ合った後でも魔王様は無表情だけれど、微かに微笑んでいることが僕にはわかる。
ここ数日は夜、こうして眠る時しか会話ができないし、魔王様はあんまりお喋りではないけれど無言でも落ち着ける空気が二人にはある。
手を繋ぎながら隣同士横になって、今日あったことをぽつりぽつりと報告する。
そうしている内にどちらともなく眠ってしまうのだけれど、そんな流れも僕は好きだったりする。

今日はもちろん携帯のことを話した。
話していると徐々に眠気が襲ってきて、意識を手放す寸前、フォラスさんに携帯をもう一台作ってもらおうと思った。
魔王様が機械音痴でないことを祈って。

END.
>>【律@ritsu_f

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