「じゃあ休みの日、この公園で」

約束を交わし、僕達は別れた。
学校で話せないと言うと彼はまた悲しそうな顔をした。
そんな表情に耐え切れなくなった僕は、休日よくこの公園に来るから、と切り出した。
そうして堀江くんは、俺もここに来ようかなと笑った。
確固たる約束事ではない。
けれど、僕にとってそれは微かに宿った希望に思えた。

今まで憂鬱だった月曜日が、嘘みたいに爽やかに感じる。
まるで生まれ変わったような気分だ。
登校する僕の足取りは、久しぶりに軽かった。
何故なら頭の中はもう週末のことでいっぱいで、島本くんの存在など忘れ去っていたからだ。

しかし、浮かれた気持ちに浸っていられたのも昼休みまでで。
僕にとって変化があった月曜日でも、彼、島本くんにとっては日常でしかない。
そのことに気付いたのは、愚かにも彼に捕まってからだった。

「よう、今日は随分ご機嫌だなぁ?」

普段使われることのない数学教室は、空調も行き届いていてお昼ご飯を食べるには穴場だったりする。
美化委員の先輩が言っていたのを思い出し、寒さが増した頃から利用しだした。
まだ幾日しか経っていないけれど、誰も来る気配がなく本当に穴場だったようで、僕は気に入っていた。
今日もそこで一人にやけながらお弁当を食べていた。
そしてまたしても僕の居場所が島本くんにバレてしまった。
島本くんは誰も来ないであろう場所にいる僕をすぐに見つけてしまう。

「何か良いことでもあったのか?」

凶悪なにやけ顔で覗き込まれると、さっきまでふわふわしていた心が一気に萎む。

「……何も、ないよ」

無意識に体が強張り、お箸を持つ手に力が入った。
島本くんは興味なさそうに相槌を打つと僕の隣に座る。
相変わらずお昼はコンビニで買ってくる物らしく、食べ盛りなのかレジ袋からは僕なら食べ切れそうにない程のパンやらサンドイッチやらが出てくる。

(野菜が少ないな……体に悪そう)

食べ物の嗜好まで島本くんとは合わない、と思った。

「今日、俺ン家な」

僕はその一言に凍りついた。
暗にセックスをするという意味だからだ。
一昨日までの僕なら何もかも諦めていたから、多少気は重くなるものの溜息を吐く程度で済んでいた。
でも、今は何故だか虫唾が走るくらい気持ち悪くなった。
だとしても、僕に拒否権なんかない。
我慢するしかないんだ、週末になればきっと良いことがあるから。
だからその時まで――。
何度も何度も自分に言い聞かせた。


放課後、いつも待ち合わせ場所として指定されている駅前の本屋で落ち合った。
そのまま少し歩いたところにあるタワーマンションが島本くんの家だ。
4LDKの間取りは大体把握してしまった程慣れた。
下層階よりワンランク上なのか、ゆったりした造りになっている。
そんな島本くんの部屋も、高校生にしては高級感ある黒で統一されたラグジュアリーな空間だ。
部屋に着くまで、否、着いてからも二人には会話がない。
本来そういうのを楽しむ関係ではないのだから当たり前だろうけれど、その間、居心地が悪い。
特に今日はそう感じた。
いつもは何も考えずただ従うだけなのに、今は逃げ出したくて仕方がなかった。

少し乱暴に質の良いベッドに押し倒される。
性急に制服を脱がされ、晒された素肌に島本くんが吸い付いた。
その瞬間、ぞわりと全身鳥肌が立った。
もちろん快感からではない、寧ろその正反対で。
肌を這う舌が不快で吐き気がした。
性器に触れられ、蕾をローションで解されると、今まで拓かれた体は正直に反応する。
しかし、僕の心は追いつけなくて不快感に瞳がじわりと滲んだ。
口を開けば彼の機嫌を損ねそうなことを言いかねないので、両手で塞いだ。

「何、今更んなことしてんだよ。いいから鳴けよ」

意地の悪そうな笑みで横暴にも僕の手を無理矢理離した。
それでも歯を食い縛っていると、島本くんは舌打ちして、噛み付くように唇を貪ってきた。

「んっ……嫌!」

僕は思わず顔を背けて拒絶してしまい、言った後で、血の気が引いた。
すると、横を向いている僕の目の前にどすん、と拳が落とされた。

「こっち向け」

低く、だけれど威圧的にそう命じた。
ゆっくりと、慎重に彼と向き合った。
ぼやけた視界でもはっきりと怒気が伝わってくる。

「うぜぇな……」

心底そう思ったように言い捨てると、僕の髪の毛を鷲掴みにして引きずり寄せた。
島本くんの長大な性器を見せつけると、舐めろと言った。
口で奉仕すること自体幾度かあったけれど、今の僕には到底できない行為だ。
見るのも嫌だけれど、口に含むなんて考えたくもなかった。

「早くしろよ!」

動く気配のない僕に痺れを切らした島本くんは、僕の顎を掴むとそのまま自身をねじ込んできた。
吐き出そうにも頭をがっちり固定されてしまい、身動きがとれず、嘔吐きながら僕は大きいそれに舌を這わせた。

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