愛撫によって智樹の体がほんのりピンク色に染まっていく。
何度か、無理矢理開かれた蕾を、今は佐野が舐め解していた。
あまりにも恥ずかしく必死で抵抗したが、ずっと快感を与え続けられたためか力が出なかった。
仮に全力で抗ったとしても、体格や体力の差は歴然だけれども。

「ふぁっ……佐野、さん……やっ」

ぴちゃぴちゃという水音が、羞恥心を擽る。
智樹にすれば長い時間だったが、満足したのか佐野は上体を起こした。
二人は既に一糸纏わぬ姿で、仰向けになっていた智樹がちょいと顔を上げると、佐野の自身は大きくそそり立っていた。
今までの行為が暴力的だったため、この快楽溢れるものが同じ行いだと結びつけていなかった智樹は、それを見た途端、一気に血の気が引いた。
挿入されると苦痛が伴うとしか認識していないからだった。

先までとは打って変わって、真っ青な顔で震える智樹に佐野が気付く。

「どうした?」
「佐野さ、ん……」

縋る様な目で見つめられ、それが余計に佐野の雄を目覚めさせた。
もういいだろう、と荒っぽく言い捨てると、ぐっと先端が智樹の中に押し入ってきた。
心積もりができていなかった智樹は、その異物を受容してしまい、あっという間に奥まで埋まってしまった。
ただ、予想していた痛みはあまりなく、それよりも燃えるような熱にどうにかなってしまいそうだった。

佐野は押し潰すかのような勢いで抽挿を繰り返し、揺さぶられている智樹は息も絶え絶えだ。
されるがままではあるが、内側のある一点が擦られる度、心地よい痺れを感じた。
その感覚に頬は紅潮し、体もまた色づき始める。
佐野も心得ているのか、ピンポイントでそこを突いてくる。

「あっ……あぁっんっふっ……あ、あっ」

喘ぎが漏れ出すと、追い込みと言わんばかりに、胸の突起に手が伸びてきた。
きゅっと摘み上げられると、下腹部まで快感が流れる。
智樹は思わず後孔を締め付ければ、佐野の形を感じてしまい、急に恥ずかしくなった。
そんな智樹を佐野はくつくつと笑い、より腰を激しく動かした。

高められていく悦びに、智樹は次第に怖くなった。
この気持ち良さに天井はないのか、これ以上続けるとどうなってしまうのか。
快楽を伴うセックスどころか、自分を慰めることすらやったことのない幼さでは恐怖しか覚えなかった。

「佐野、さっあぁ!ま、んっ待ってぇ!あっあ……っ!」
「今更、待ったもなし、だろうが……っ」

いつの間にか佐野も切羽詰った表情で、絶頂を迎えようとしていた。
智樹は意識が段々、天に昇っていく感じに嗚咽をあげ泣き出した。

「やだっ……ひぃぐっ……こわ、いっ……ひっ……ぐ」
「どうした?痛かったのか?」

佐野は動きを止めると、智樹の涙を拭った。
問いかけには首を左右に振っただけで、肩を震わせしゃくり上げている。
すると、ふわり、と瞼に柔らかい感触が降ってきた。
驚いて目を開ければ、佐野の慈愛に満ちた笑みが映った。
鼻、おでこ、頬、唇と次々にキスの雨が降り注いだ。
普段とは違う優しい佐野に対しての驚きが、涙を塞き止めた。

「やっと泣き止んだな」

先程の穏やかな笑顔はどこへやら、ニヤリ、と意地悪く笑うとまたゆっくり行為を再開する。
ぐちゅ、と結合部が水音を立て、固く熱い物の先端がまた奥まで入ってきた時、智樹は佐野を制した。

「だ、だめっ……これ以上、すると、僕……変になりそ……です」

佐野は汗で額に張り付いた智樹の前髪を掻き上げてやると、自分の額を擦り合わせた。

「変になっちまえ」
「で、も……怖い……僕、僕……っ」
「だったら、俺のことだけ考えてろ。俺だけ感じてろ」

そう言うと、両手とも指と指を絡ませた。
智樹は佐野の言葉に従うよう、五感全てでその存在を受け入れた。
内部に覚えた熱の塊も、繋がりから生まれる愉悦も、密着した汗ばむ肌も。
そうすれば、何もかもが愛おしく思えてきて、きゅんと胸が切なく鳴った。

「佐野、さん……佐野さん……っ」

次第に律動が激しくなるも、時折交わされる口づけが安心感を与えた。

「はっ……出すぞ……っ」

苦しげな佐野の声を最後に、音は遠のき、目の前が真っ白にスパークした。
と、同時に想いも溢れ出た。

「佐野、さっ!好き……っ」

ほとんど掠れる声だったが、それは確かに佐野の耳に届いた。





壮絶な冬の出来事から半年経った夏。
茹だる暑さのため、早めに仕事を切り上げて、佐野は帰路に就いていた。
高層マンションの最上階、手馴れたように玄関ポーチを抜けるとその先のドアを開ける。
ふわりとオレンジ色の照明が広がった。
奥からは出汁の良い匂いが鼻腔を擽る。
そこに、パタパタと軽い足音が近づき、リビングドアが開くと、何よりも手に入れたかった者がひょっこり現れた。

「おかえりなさい……や、大和さん」

そして何よりも見たかったもの、智樹の心からの笑顔があった。
最初こそぎこちなかった智樹だったが、最近ではこうやって笑いかけるまでになった。
不意に、そっと頬に手を沿わす。
智樹は目をぱちくりさせた後、甘えるように頬ずりした。
堪らず唇を奪うと、今度は甘い吐息を漏らす。

今まで、佐野は智樹に対し、感情を言葉で表現したことはなかった。
その必要性を感じなかったし、何て言えばいいのかもわからなかったからだ。
けれど、家に帰れば明かりが灯り、夕飯の匂いと共に現れる暖かい人がいる。
この日常になりつつある幸せのまどろみの中、それはするりと零れ落ちた。

「智樹、愛してる」

嬉し泣きする智樹という新たな一面をまた、佐野が知ることとなるのは、この数分後であった。



END.

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