僕は携帯の画面と睨めっこしながら、懸命に文字を打った。

――今日はロコモコを作ってくれました。とっても美味しかったよ!やっぱり何しても彼はかっこいいな。

打ち終えると、送信ボタンを押した。
こうやって一言日記のように松原くんのことを語るのが、ここ最近の日課になりつつある。

内気で吃音が酷い僕は今まで友達ができた例がなかった。
けれど松原翔くんという恋人ができてから、時々僕は彼の素晴らしさを余すところなく語りたい衝動に駆られる。
とは言ってもそんな友達はいない。
バイト先の先輩で真崎さんという男の人と仲良くなったけれど、僕の恋人が男だとは知らないしプライベートで会うこともないから叶わなかった。

誰かに話したい、けれど話せない。
僕は悶々と日々を過ごしていた。
そんなある日の休憩時間。

「ね!私やっとBoyaitarでアカ取ったんだ!フォローしてよ」

女の子達の会話がふっと耳に入ってきた。

(Boyaitarって何だろう?)

「やっとかー!いいよ。あ、でも私愚痴ばっかだからそこはスルーして」
「気にしないから大丈夫。私も独り言ばっかぼやくかも」

(独り言?ぼやく?)

その内容が気になった僕は帰宅すると、電話とメールでしか活用しなかった携帯で初めてウェブ検索を使った。
そして、Boyaitarの存在を知り、これしかないと思いすぐに登録した。
それから僕は、ひっそりと松原くんへの想いの丈を全て綴った。
Boyaitarは僕だけの宝物のようなもので、僕の秘密だった――。

だった、のに。

「その彼って俺のこと?」

真後ろから聞こえたのは僕の一番大切な人の声。
けれど今は肝を冷やす人物でしかなく。

「なあ、それ全部読んでいい?」

背中から抱きこまれて耳元で甘く囁かれた。
お風呂上りの彼からは石鹸のいい香りがする。
いつもの僕ならそれだけでふにゃふにゃになってしまうが、もう逃げられない密着度に冷や汗をだらだら流すだけだった。

「陽、見せて?」

かぷっと耳を甘噛みされ、まるでライオンに喉を噛まれた草食動物よろしく携帯を彼に差し出した。



散々熟読された僕の想いは、松原くんの体で返されたということはさすがにBoyaitarには書けなかった。

END.
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