「はぁ……そう、うまく納まったんだね」
「うん、ありがとう千晴。悠一さんとちゃんと恋人同士になれたのは千晴のおかげだよ」

悠一さんと気持ちを確認し合ってから少し落ち着いた頃、僕は千晴の家に報告を兼ねたお礼を言いにきた。
千晴はまだ全部納得していないのか、頬がぴくぴく引き攣りながらだけどちゃんと聞いてくれた。
悠一さんと千晴はまだ仲違いしたままだけれど、今度三人で食事することになっている。
願わくばそこで関係を修復してほしい。
三人で笑いながら話ができる日は決して遠くない未来だとどこかで確信がある。

「それでね、千晴をお母さんと間違えて……その襲っちゃったっていうのはね……悠一さん酔ってて……」
「違うよ」
「え?」
「実は、お母さんに間違われたわけじゃなかったんだ」

それは悠一さんが千晴と認識していた、ということだろうか。
一気に血の気が引いた僕の表情を見て、千晴は慌てて否定した。

「そうじゃなくて!あの時、家に行ったらあの人お酒を飲んではいたみたいだけど、私を見て千尋って言ったの」
「え、僕……?」
「『千尋帰ってきたんだな』って……そしたらいきなり押し倒されて。すぐにお兄ちゃんとの関係がわかっちゃった。きっと無理矢理そういうことしてたんだろうなって頭にきて、もう二度とあの人と会いたくなくなるように嘘ついたの」
「千晴……」
「まさかお兄ちゃんがあの人のこと好きだって思わなかったから。ごめんなさい、変に傷つけちゃったよね」
「ううん、ありがとう千晴。確かにショックは受けたけど、そのことがなかったら僕と悠一さんはすれ違ったままだったと思う」

お兄ちゃん、と千晴は声色を滲ませた。
妹にも康太さんと幸せになってほしいと今では心から願っている。

恋とか愛はもっと劇的なものばかりだと思っていた。
一目見た瞬間から恋に落ち、様々な障害を乗り越え、愛を語り結ばれる。
だけど実際はじわじわと染み入るように気が付けば心を奪われていた。
激しく燃え上がるわけではなく、ぴたりと吸い付いて離れない磁石のような。
だからこそもう離れることはないと感じられる。
永遠、と言えばロマンチックだけれどこの先歳を取って考え方や環境が変わってもそれは変わらない。
きっとそういうもののことだろう。
そして僕は愛を知ったんだ。


END.

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