と、突然フローリングに勢いよく押し倒された。 思い切り後頭部をぶつけ痛みで出た呻き声ごと悠一さんの口づけに呑まれた。 容赦なく入ってくる舌や唾液に僕は抵抗する暇を与えられない。 キスに翻弄されている間に悠一さんの両手は僕の肌を激しく弄った。 「千尋、千尋!帰ってきたんだなぁ!千尋ォ」 「ま、待って悠一さ、ぁっ」 性急に服を脱がされ、首筋を這っていた唇は皮膚をちくりと吸い上げた。 それはまるで確かめるように全身に渡った。 内股あたりまでくると今度はそこから後孔まで舌を這わせた。 背筋がぞくぞくとする感覚に身体がしなる。 そして両手で尻たぶを開かれるとそこに舌が入ってきた。 「ひゃっあ!だめ、そこはだめっ」 聞く耳など持たず悠一さんは丹念に舐め解す。 僕の吐く息とぴちゃぴちゃと卑猥な水音が室内に響いた。 「あっあぁ……んんっ……ふぁっ、ひゃぁん……!」 中で動く舌は熱くぬるりと動いてどこを舐められても飛び上がりそうな程気持ちが良かった。 充分に濡れると次は指を一本入れ、更に二本、三本と強引に増やしていった。 それでも中で三本の指をバラバラに動かされるといいところに当たり、僕の自身は天辺を向いていた。 ある程度柔らかくなると指を抜いてすぐさま悠一さんの物が挿入された。 「あ、んっ……苦しい、よ……まだ動かない、でっ!ひああぁっ」 僕のことはお構いなしに悠一さんは腰を動かす。 律動の度に肌とフローリングが擦れてずっずっと鈍い音がした。 久しぶりの圧迫感に慣れようと息を吐いていたけれどそれすら悠一さんの唇で封じられた。 そのセックスは全身を悠一さんに絡め取られるようで僕は溺れてしまいそうな錯覚さえした。 「あっあっ、あ、んぁ、あ、あぁっ、はっはぁっ、ゆ、悠一、さっ、あぁっ」 「千尋、千尋……!」 悠一さんは何度も僕の名を呼んでは口づけする。 それは僕という存在を確認しているようだった。 激しい行為に最初は押し潰されていたのに、気付けば僕の手足もがっちり悠一さんに絡み付いていた。 一ミリも離れないと言わんばかりに僕達は密着しながらも、貪り合った。 より一層激しくなると一突きされる毎に痙攣し意識が高く昇っていく。 悠一さんの熱い塊が一番奥に届いた瞬間、頭の天辺から爪先までぐわんぐわんと痛いほどの快楽が押し寄せた。 遅れて悠一さんも達したようで、お腹の奥深くにじわじわと温かいものが広がった。 「はぁ……は……っ」 お互い肩で息をするくらい消耗し、暫くは繋がったまま動かなかった。 行為が終わっても会話はなく、悠一さんは無言のままずるり、と僕の中から出ていった。 僕も起き上がろうとして上体を起こせば、悠一さんにベッドにまで引き上げられた。 驚く間もなくまたしても熱い口づけを受ける。 僕は落ち着いたら悠一さんと話をしようと思っていたから、欲情の篭もった指先に撫でられまだ終わりではないと悟った。 唇が離れ、ふ、と目と目が合った。 仄暗い闇の中で僅かに悠一さんの目が半球型に沿ってぎらりと光を帯びていた。 それは真夜中の森で狼に対峙してしまったような気分だった。 恐怖にも似た強烈な痺れが走り、肌が粟立った。 だけど決して恐れではない。 寧ろ興奮を助長させるもので、今度は僕から誘うように唇に噛み付いた。 僕達はそれこそ溶け合うように睦み合う。 終わりがないかのように何度も何度も交わった。 降り注ぐ光が眩しくて目を覚ました。 遮光カーテンを閉めていない窓からは通りを行き交う人がちらりと見えた。 次に昨夜の行為を思い出し外からはあられもない姿が丸見えだったことに気付いて飛び起きる。 さーっと血の気が引いてもう手遅れだと言うのに勢いよくカーテンを閉めた。 途端に足腰から力が抜けてへたり込む。 何も身につけていない身体にはフローリングの冷たさにすくみ上がるが立ち上がることは難しそうだ。 (うぅ……腰がめちゃくちゃ痛い……) ビキビキと電流のような痛みの一因である彼は、まだベッドで眠っている様子だった。 這いずりながらもベッドに戻りその顔を覗き込むと、目の下が薄っすら黒ずんでいた。 伸び放題の髭も相俟って、悠一さんは完全に‘疲れているおじさん’だった。 それが何だかおかしくてクスクス笑っていると、悠一さんの瞼がぴくっと動いて薄っすら開いた。 「あ……ごめんなさい、起こしちゃいました」 「ち、ひろ……?」 悠一さんは僕がいることに驚愕していた。 違和感を覚えた僕はどうかしたの?と問いかけるも、悠一さんは起き上がり辺りを見回しては頭を抱えた。 「悠一さん?大丈夫?」 「何でここにいるんだ……お前は千晴のところにいったはずだろう?」 つい数時間前までの情交は夢だったのかと思える程、悠一さんの声は冷たく僕を突き放した。 唐突に距離が遠くなったことに焦り僕は思わず悠一さんの腕に纏った。 「そうだけど、戻ってきたの。悠一さんと一緒にいたい、から……僕、ここにいたい……ここで悠一さんと暮らしたい」 そう言うと悠一さんは下唇をくっと噛んだ。 いくら必死に訴えても彼はこっちを見てはくれない。 << >> |