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※兄妹設定 これの続き


「涼くん、お風呂あいたよー」
「あ、サンキューなまえ。すぐ入る」
「あと、シャンプー切れそうだから足しといて」
「りょーかい」

涼くんが私の頭をぽんと叩く。背の高い彼は私の横を通り過ぎてお風呂場に向かう。今年高校生になったばかりの、ルックスにも正直相当高い評価を与えられるだろうこの兄は、私の一番の自慢だ。私はちんちくりんだけど涼くんは違う。涼くんは、お兄ちゃんは特別だ。

特別なのだ。


「あー。やっぱ風呂は熱いのに限るね」
「えー、また熱くしたの?このくそ暑いのに…涼太キモ」
「こら、涼太じゃなくて、お兄ちゃんだろー!偉大な兄をもっと敬え」
「無茶言うなクソ兄貴」
「ウゼー!かわいくない妹!」
「どうせクソ妹ですー!」
「じゃあクソ兄貴とおそろじゃんー!嬉しいっしょ!」
「一応言っとくけど嬉しくないよ」
「黄瀬家は全員馬鹿の血を色濃く受け継いでいるから!」
「全っ然嬉しくない!大体なんでドヤ顔なのよー!」
「あー。あっちぃ。あ、そういえばシャンプーの買い置きなかったからさあ、買い足しとけって母さんに言っといて」
「はあ?自分で言ってよーそれくらい」
「だってメンドくせーもん、あー、麦茶とってこよ」

風呂から上がった涼くんからはうっすら湯気が見えるような気がした。真っ赤なほっぺはきっとプライベートのときしか見れないもの。涼くんを大好きな女の子たちはきっと見ることができないもの。涼くんが私の横を通り過ぎてリビングへと向かう。あ、今日。シャンプーのにおい、違う。ああそっか、違うシャンプー使ったのか。試供品とかのやつかな。ふんわり香る香りはいつもと違う匂い。私の知らない、匂い。心臓がどくんと跳ねる。これは多分、他人の匂いだ。だけど明日になればきっとお母さんが詰め替え用を買ってくるだろう。すぐにまた同じになってしまう。くしゃりとパジャマの裾を握った。下唇を噛む。喉が急速に乾いていく。ごくり、と鳴るのが分かった。違うシャンプーの匂い。たったそれだけのことで、私の中の他人という垣根は、いとも簡単に崩される。
ああ、そうか。それなら、或いは私。今ならその手を掴んでもいいのかもしれない。

二時の泡沫


黄瀬が家族の前だとどういう口調になるのかわからないという問題が浮き彫りになる話2。 
(120710)