空高編


第2章 神子と接触



何の音かと翼は腰を持ち上げた。
死燐は手を横に伸ばし、翼達を静止する。

「話している傍から…羅繻。」
「任せて。」

一歩踏み込み、死燐の前へ立つ。
バン、と勢いよく扉があくと真っ黒なコートに身を包んだ何人もの男が飛び込んできた。


第17晶 命の奪い合い


「な、なんだアイツ等は!」

雷希は叫び、背中に下げた大刀を握る。
死燐がそれを察したのか、雷希へと振り向く。その表情は相変わらず無表情だった。

「手を出す必要はない。」
「で、でも」
「羅繻が居れば大丈夫。アイツは強い。」

黒いコートの男は5人。
羅繻がにこりと男達に微笑むと、ミシミシと音を立てて壁や床が軋む。
ピシッと乾いた音がすると、羅繻の周囲から蔓が伸び出した。
蔓の1本1本が、まるで1つの意思を持っているかのように黒コートの男達に襲いかかる。
さて、と死燐は小さく呟いて蔓から逃れようとナイフで切りかかる男達を指さす。

「話している途中だったな。まぁ見ての通り、あれが政府だ。」
「見ての通りとはなんだ?!明らかに襲われているではないか!」

決してそんな事が出来る雰囲気でも状態でもないのに、あっけらかんとしている死燐に翼は大声で怒鳴った。
それでも翼達から、そして黒コートの男達から放たれる緊迫した雰囲気は彼には届かない。

「あー…まぁ、そうとも言うな。」

口元に手を当てながら、一言。
寧ろそうとしか言わないという翼の叫び声は聞き入れてくれないらしい。
男の一人が死燐に向けてナイフを飛ばすが、そのナイフは死燐へと届く前にドロリと溶け出し、その破片が床へと零れる。

「羅繻。あんまやり過ぎるなよ。床が溶ける。」

ナイフを溶かした正体は羅繻の左肩から生え出す巨大な植物。
肩にひそませていた訳ではなく、まるでその肩から芽を出したかのように伸びていた。
ぼこぼこと皮膚の表面から音を立ててそれは更に成長する。
血のように真っ赤な、薔薇のようにも見える巨大な花からは蜂蜜のような液体がどろりどろりと垂れていた。
花の蜜が床へと零れると、ジュゥ、と音を立てて床の一部を溶かす。
その姿は、まるで彼が植物そのものであるかのようで、羅繻の姿を初めて見る翼達はゾクリと背筋を凍らせた。
明らかに、その姿は人間のそれとは言い難い。

「な、何なのだあれは…」
「気にするな。」
「気にするぞ!一体何なんだあれは、俺にもわかるように説明をだなぁ!」
「説明するって。そう焦るな。ハゲるぞ。」
「ハゲない!」
「さっきも言ったろ。無残な殺しのやり方をするのは、政府だって。」

蔓が男達を捕えたと思うと、蔓はみるみる太くなり、鋭利なトゲを生やしてコートを、皮膚を、肉を貫く。
大広間に敷かれた絨毯に、赤い染みが滲む。
その痛みで叫ぶ男達の声が響くが、どうやら致命傷にはなっていないらしい。
左肩から生えた赤い植物が、口を開けるように花弁を大きく広げる。
死燐はそこで羅繻の右肩を叩き、静止した。

「羅繻、そこまで。これ以上は翼達の前じゃ見せられないだろ。」
「えぇ、此処からなのに。それに特にコイツ、死燐にナイフ向けた。許さない。」
「わかったから。お前の能力は目に悪い。」

羅繻は渋々頷くと、肩から生えていた植物はみるみる羅繻の身体の中に吸い込まれた。
呆気に取られていると、幽爛がふわりと羅繻達の元へ駆け寄る。

「死燐。」
「ああ、頼む。」

幽爛はふわりと死燐に微笑みかけた後、男達にそっと白い手を伸ばした。
男達の身体からふわりと白い光が漏れ出す。
その光を、幽爛はそっと手に持つとその口の中へと入れてごくりと飲み込んだ。
魂を、霊を操る力を持つという彼が何をしたのか。
それが何を意味するのか想像はついたが、極力考えたくはなかった。

「僕、醜射呼んで来るね。」
「あぁ。よろしく。」

幽爛は明るい笑みを浮かべて部屋を出る。
呆然と見守っていると、死燐は何事もなかったかのように椅子に座った。

「まぁ、悪かったな。嫌な所見させただろうし。」
「し、死燐殿…あれは…」
「俺達も訳ありってコト。さっき言ったろ?地を許可なく離れた奴らは反政府派とみなされるって。」

死燐の言葉に翼は頷く。

「俺は弥瀬地の出身だ。羅繻は黄荒地。みんな、訳あって地を離れている。」
「僕達はまぁ、此処に居てはいけない存在って奴かな。それで、政府は処分しによく来るの。」
「処分ってつまり…」
「つまり、殺しか。」

雷希の言葉に、羅繻はその通り、と笑顔を見せる。
決して笑顔を見せるような時ではないのだが、羅繻にとってはそれが麻痺しているらしい。
もうぴくりとも動かない黒いコートの男達を見て、翼はごくりと唾を飲む。
雷月や飴月も、やはりショックだったのか声が出ない。

「殺さずに済む方法は…ないのか…」
「出来ることならそうしたい。でも手加減は出来ない。やられる前にやる。それに。」
「それに…?」
「生かしても無駄なんだ。こちらの情報を政府に流すだけ流して、自害する。」
「そういう人、何人もいたから。」

それでも。
翼はそう思ってしまい、拳に力が入る。

「コイツ等が殺した人達が、政府によって虐げられた人達が、未練を残して死に至る。その時、霊は悪霊となって彷徨う。」
「でも、今まではこういった事…なかったんだろ…」
「それ程、増えてるんだよ。反政府派とみなされる人間も、みなされる基準も。」

死燐はそう言うと、大広間に設置されているテレビを指さす。
先程まで電源の切れていたテレビが突如映しだされた。
小さな箱の中には、翼と瓜二つの、腰まで伸びた空色の髪をした少年が映されていた。

「なっ…」

翼も、そして他の3人も言葉を失う。
どう見てもその箱の中に映っている少年は髪の長さは違えど翼そのものだった。
しかし翼は目の前にいる。

「じゃ、もう一つ話してやるよ。お前がいなくなったにも関わらず、騒ぎが収まったその訳を。」

 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -