Pray-祈り-


本編



塔の扉に触れ、開けようと試みたものの、扉が開く気配がない。
強引に押しても、引いても、びくともいないのだ。
鍵がかかっている、という訳でもない。

「これは、ヴェルノが言っていた結界のせいじゃないか?」
「嗚呼、確かに…神器の力で入れないのなら、外部からも簡単には入れない、ということか。」

よくよく考えれば、相手側もそう簡単に侵入を赦してくれる訳がない。
結界を突破するにも、その術がわからず、頭を抱える。

「どうした。結果が破けないか?」

その声に、一同は振り向く。
先程まで話をしていたばかりの、見知った顔がそこにはいた。

「ユーリ…さん。」


第26器 結界突破


「何故、ユーリさんが此処に?」

イノセントが問う。
ユーリはつい先程まで、図書館に居て、自分たちを見送ったばかりのはずだ。
それを問われ、ユーリは少し恥ずかしそうに微笑む。

「否、何、お前たちにだけ行かせる訳にもいかないと思ってな。少し位は出来ることをしようと、私なりに考えたんだよ。」

そう告げると、ユーリの右手の周りにふわりふわりと青い光が集まっていく。
収束する光をユーリが握りしめると、それはユーリと同じくらいの背丈になる、巨大な剣へと変身した。
あまりにも異様な光景に、周囲の皆は唖然とする。

「さてと、お前ら下がれ。」

ユーリの言葉に従い、皆は一歩一歩、下がっていく。
巨大な刃を扉へとかざすと、めらめらと刃から青い炎が立ち上げる。
ごうごうと燃える炎ごと、刀を振り下げるとその炎はぐるぐると渦を巻きながら、まるで一つの生き物のように扉へと飛び込んだ。
扉に体当たりをした炎は扉を燃やし、道を作る。
青い火花がパチパチと音を立て、ユーリの姿を、青く、不気味に輝かせた。

「ほら、開いたぞ。」

ユーリは得意げに笑う。
しかし、エイブラムたちには理解出来なかった。
この世で不可解な力をもたらすものは、神器のみのはず。そして、神器を所有している共鳴者の中に、ユーリはいないはずだ。
不思議そうに眺めているエイブラムたちの気配を察したのか、困ったようにユーリが笑う。

「何故、青い焔を操れるのか、って言いたいんだろ?残念ながら、私もずっと悩んでいるんだ。戦乙女から受けた呪いの影響だとは思うのだがね。この剣も、元々は魔女の使い魔から奪ったものだ。」

不可解な点はいくつもあるが、だからといってこのことに議論をしている場合でもない。
ユーリの言葉に納得しつつ、エイブラムたちは塔の中へと入って行く。
しかし、ユーリは塔の前から動かない。

「入らないんですか?」

イノセントが問う。

「お前な、今からその塔でどんぱちするんだろ?万が一の時のために、私は此処に残り、見張りをしてやる。それに、お前には言いにくいが…正直、私はどちらに付くことも出来ない。お前もアルバも、大事なクロスの忘れ形見だ。どちらか一方を贔屓するなど、私には…」

ユーリが目を伏せながら、答える。
彼にとっては大事な親友が残した子孫だ。その子孫のどちらかに味方をして、動かなければいけないというのは、エイブラムたちが想像している以上に辛い選択なのだろう。
無責任だと彼を責める人もいるかもしれないが、少なくともこの場に、ユーリを責める者は存在しない。
皆、ユーリの立場なんて、何十年もずっと生き続ける苦しみなんて、わからないのだから。
友が死に、その子が育ち、更に孫を産み、その子も死に、孫が育ち、そんな光景をずっと見つめ続けたユーリの気持ちは、ついに両家の人間が争うことになってしまった現実を突きつけられた現実は、誰にもわからない。

「わかっているよ、ユーリ。此処まで来てくれただけでも、有難い。」

エイブラムがそう告げると、ユーリは少し、ほっとするように微笑む。
実際、外を見てくれる人が必要なのは事実だろう。街から離れている禁じられた森に興味本位で入る者はいないだろうが、万が一ということもある。

「エイブラム…と、言ったな。イノセントと…アルバを、頼むな。」
「任せてくれ。」

二人は、背を向ける。
ユーリは外を見張るために、そしてエイブラムは、塔の中へと突入する為に。
白い塔の中を見上げると、階段が螺旋階段状になっていて、いくつかフロアがわかれているように見える。
ぐるぐると回り続け、上り続けなければ頂上には辿り付けないということだ。
そして当然といえば当然なのかもしれないが、階段以外に上へと行く手段は存在しない。

「…何階まで、あるんだろうな。」

アリステアがうんざりするように声を漏らす。
そう思っても仕方ない位、外からみた塔は大きかった。階段で昇って行くと、体力も当然消耗していくだろう。
しかし、上り続けるしかない。
エイブラムたちは階段へと足を踏み入れると、ゆっくりと階段を上る。
流石に走ると必要以上に体力を消耗してしまうため、焦る気持ちを抑えながら、ゆっくりゆっくり、上っていく。
白い壁。白い階段。窓もなく、全てが白で、どれくらいの時間が流れたのかとか、外が今朝なのか昼なのか夜なのか、上っていくにつれわからなくなりそうだ。
階段を上り終え、一つのフロアに辿り着く。
そして、更に上のフロアへと向かう階段が奥にあり、その階段と、エイブラムたちを阻むように、中央に一人の男が立っていた。

「あーら、やだわねぇ、来ちゃったの?来ない方が、貴方たちの為だったのにぃ。」

独特の口調には聞き覚えがある。
黒い制服の上に、ふわふわのファーが特徴的なフード付きの上着を羽織る青年。
白い髪に、赤いメッシュ。その姿は、黒い制服の…警察官らしくない、独特のヘアスタイルだ。しかも、頭部からはぴょこりと跳ねた癖っ毛が目立ち、その癖っ毛はまるでウサギの耳のようである。
細い瞳が開かれ、じぃとこちらを眺める。

「まぁ、神器を回収しなくちゃいけないから、来てくれたのは丁度良かったのだけれど、ね。」

そう言って、シリル=ローレンスは微笑んだ。

 


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