消えない違和感


「名前!今日めっちゃ任務頑張ったんだけど!褒めて!」
「悟偉い。頑張った」
「おい、棒読みやめろ」
「よしよし」
「っ!!」

談話室で悟と姉さんがイチャついてる(悟が一方的に)のが見えて部屋に引き返した。
まさか本当に告白するとは思ってなかったし、姉さんもOKするなんて思ってなかった。私は本当に何も姉の事は知らなかったんだなと落ち込んでいる。落ち込む資格もないんだけどね。
悟は毎日浮かれてるし私が彼女を抱く事は二度とない。これで良かったんだと思わなければいけないのに喪失感がいつまでも消えなかった。
硝子の言う通り、姉さんと呼んでいるだけで私はひとりの女性として接していたんだろう。きっと幼い時からそうだったんだ。
弟にもなれない、彼氏にもなれない私は姉の為に何が出来るのか。
いや、もう何もしなくてもいいのかもしれないな。彼女の事は悟が救ってくれるのだから私はもう…

「夏油さん、ちょっといいですか」
「ん?七海どうしたんだい?珍しいね」

どこか暗い表情の七海に連れられ灰原の部屋に入った。
夏油さん!といつもならにこにこしている灰原も俯いてしゅんとしている様に見える。
任務で何か問題でもあったのだろうか?
確か今日は姉さんが引率だった筈だけど。

「二人ともどうしたんだい?」
「名前さんがおかしいんです…」
「え?姉さんが?」
「俺は名前さんと波長?が合わないらしいからなるべく話さないようにしてたんですけど、今日はめちゃくちゃ笑顔で話しかけられました」
「私にはいつもベタベタとうざったいくらいに触って来るのに今日はそれがありませんでした」

あぁ灰原とは合わないって言ってたっけ。
それでも頑張って仲良くなろうとしたんだ。七海は毎回暑苦しいと言っていたから自重してるんだろう。
姉さんは変わろうとしてるのだろうか。
二人ともにとってもそれはいい変化だと思うんだけど何故落ち込む必要がある?

「えーっと?それの何がおかしいのな?」
「俺、嬉しくって調子に乗っちゃって、怪我したんですけど、それっきり近づいても話してもくれなくなって…」
「…治して貰ったんだろうね?」
「いえ、名前さんは酷く震えていてとても治せる状態じゃなかった。寒いのかと上着をかけようとしたら触るな、と。ひとりで呪霊を祓って帰りは別々でした」

ちょっと姉さん何してるんだ。
引率なのに自分で祓って、しかも後輩の怪我を治さないだって?有り得ない。
いや…でも、姉さんらしくない。
七海の事は目に余るくらい可愛がっているのに触るな、なんて言う筈がないのにどうして。
また発情期だった?それこそ悟がいるのに何故?

「先に帰ってと言われた時の圧と呪力はまるで別人でした」
「吐きそうになるくらい重たくて…俺たち何かしちゃったのかって謝りたくて…」
「私が謝りたいと連絡しても返事すらないのに今は五条さんと普通に話している。おかしくないですか?」

七海の連絡を無視して悟といるのか。
普通に話していたから発情期でも無さそうだし、本当に何がしたいの。
悟は何か知っているのだろうか。

「んー申し訳ないけど私には分からないね」
「そう、ですか…夏油さん、名前さんに俺と無理に話そうとしてくれなくていいって伝えてください。それで体調悪くなっちゃったのかもだし」
「というか夏油さんも変ですよ。アレは五条さんでは手に負えない。しっかりしてください」
「ハハッ、分かったよ。伝えておく」

七海の鋭い視線から逃げる様に部屋を後にした。しっかりしてください、か。
何も出来る事がないのに何をしっかりしろというのか。
姉さんに今何が起きてるのかさえ私は知らないのに。
以前の私なら問い詰めて吐かせていたんだろうけど…いや、これは後輩も関わっている事だしちゃんと話そう。
自室のドアノブから手を離し再び談話室へと足を向けた。


「姉さん、悟は?」
「お風呂入って来るって」
「そう…今日の灰原と七海の事なんだけど、」
「っ!ごめんなさい!ちょっと動揺しちゃって、次はちゃんとするから」

ごめんなさいともう一度言いながら女子寮に駆けて行ってしまった。
だからちゃんとするって何なんだ。
それに姉さんが動揺して震えるなんて何でそんな分かりやすい嘘を吐くの。
何で私に隠し事をする、の…?
隠し事?
姉さんが隠し事をするのはいつだって私の為だった。今の嘘も全部私の為?

「あっれ?名前は?」
「部屋に戻ったよ」
「ふぅん」
「姉さんの発情期は来てるの?」
「…え?はあ?!な、何だよ急に!」

何その焦り方。
…は?待って…抱いてないのか?
あれから随分過ぎてる。最低でも月に一回は来る筈だ。姉さん何を隠してるの。

「はぁー…オマエとしかした事ないから恥ずかしいって死ぬ程可愛いく言うんだよ」
「姉さんが?嘘だろう?」
「本当だよ!」
「姉さんの様子がおかしいみたいだし、我慢してると思う。…私は部屋から離れておくから抱いてやって」
「おかしい?…あー分かったよ」

恥ずかしいで我慢出来てるなら私とセックスなんてしていない。あれは我慢とかそういうレベルじゃないのに、どうしちゃったの?
親友に抱けと催促する私もどうかしてるのだけどね。
じゃあ部屋に呼ぶわと言って悟は去って行った。ソファーに横になる。
二人は本当にお似合いだ。
悟は勿論だけど、姉さんも美人だしスタイルも良い。並んでいると絵になる。
姉さんと話してる時の悟は見た事がないくらい優しい顔をしているしきっと大切にしてくれる。
姉さん。悟には隠し事なんてしなくてもちゃんと受け止めてくれるよ。大丈夫。
もう随分と見ていない私に向けてくれるキラキラ輝く瞳を思い出しながら瞼を閉じた。




  
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