姉の概念とは


「すーぐーるー漫画の続き貸……は?」

いつもの様にノックもなしに傑の部屋に入ると知らない女とディープキスの最中だった。

「悟、ノックくらいしろっていつも言ってるじゃないか」
「…良いとこだったのに。誰?」
「はあ?こっちの台詞なんだけど」

傑に跨っていた女はゆっくりと振り返った。
黒髪に気怠そうに細められた金色の瞳がまさに"良いところ"を表している様で色っぽい女だと思った。
萎えたと言って立ち上がったソイツは高専の制服を着ていて短いスカートが揺れる。スラッと伸びた真っ白な長い素足にごくりと喉が鳴ったのは男子高校生の条件反射的なやつだ。

「なら、傑またね」

すれ違い様にチラリと横目で俺を見て去って行った。

「誰?」
「夏油名前。一応私の姉だよ」
「はあ?キスしといて?」
「まぁそうだね。姉さんはぶっ飛んでるからあんまり気にしないでくれ」

いやいやいや、姉だろ?気にするわ。
濡れた唇を袖で拭きながら漫画そこにあるよと普通に会話してきたのにちょっと引いた。
傑はいつも正論しか言わない。なんつーか俺の指針みたいなもんだからまさかあんな関係の姉がいるだなんて思いもしなかった。
爛れてるどころの話しじゃない。
俺に姉がいたとしてキスするか?しねぇだろ。いや、いないから分かんねぇけども。

「ならセンパイだよな?一年経っても会ってないの何で?」
「見かけた事もないのかい?姉さん恥ずかしがり屋だからいつも気配消してるけど普通に高専にいるよ。硝子とも仲良いしね」

恥ずかしがり屋の域超えてんだろ。俺が気付かないとか有り得ない。ていうか気付いて無くて俺だけ知らない事に傷付いた。
ふぅんと素っ気ない返事をしながら漫画を開いたけどあの瞳が忘れられなくて内容なんか一ミリも入ってこなかった。

それから俺は高専を歩く時は傑の部屋でこっそり覚えた名前の残穢を探すようになった。
驚くべき事にほぼ見つける事が出来ない。
暗殺者か何かなの?
もしそうだったら俺殺されてんなと思いながら硝子に夜蛾センからの伝言を伝えるため医務室に向かった。
あ、名前の残穢。それに気付いて誘われるように医務室の扉を開けると硝子が振り返って俺を睨んだ。

「ちょっと五条。治療中なんだけど」
「あー硝子大丈夫だよ。後は自分でするから」
「名前駄目。また雑に治すでしょ。まだ終わってないから寝てて」
「はいはい」

硝子がやけに優しいのが珍しい。
本当に仲良いんだなと思いながら覗き込むとシャツをたくし上げていてくびれた薄い腹が見えた。治りかけているが血塗れの白いシャツから深い傷だったのが分かる。

「五条見過ぎ。で?何の用?」
「あー夜蛾センから午後の体術サボるなって伝言」
「うっげぇー。…名前もうちょっとゆっくり治してもいい?」
「フフッ!ならもっと派手にやってくれば良かったなぁ」
「まじでやりかね無いから笑えない」

ケラケラと笑い合うのを見ていると何故か苛ついた。俺だけ知らなかったからだろうか。

「なぁ、オマエ傑の姉ちゃんなんだよな?」
「…硝子」
「はいはい。同期の五条悟。んでこっちは夏油名前。一個上の先輩」

な ん で!硝子が答えるんだよ。
人見知りとは聞いてたけどここまでなの?
さっきまで笑ってたくせに俺が話し掛けると拒絶した様に窓の外向いたのも何か気に入らねぇ。

「てか五条会った事なかったの?」
「…この前傑の部屋で見た」
「ふぅん?」
「あぁ、あの時の白い子」
「名前覚えてるんだ?五条とも話せそう?」
「んー悪くはないけど瞳が苦手」
「ふ、ははっ、五条残念だったな!」

俺の瞳が苦手なんて人生で初めて言われた。
何が駄目なわけ?こんなイケメンほかにいねぇだろ。青い目なんて王子様みたーい、しか言われた事ないわ!
ていうか何で俺フラれたみたいになってるの。

「硝子!姉さんが怪我したって聞いたんだけど、って悟までどうしたんだい?」
「俺は硝子に伝言あっただけ」
「そうか。何事かと思ったよ。それで今回は何をしたのかな?」

傑が珍しくノックもせず息を切らして部屋に飛び込んで来た。
にこっと笑顔を浮かべているがこれは相当キレてんなぁと思いながらも面白そうなので隣のベッドに座り観察する事にした。

「普通に怪我しただけ」
「嘘だ。姉さんが普通に怪我とかあり得ないだろう?」
「夏油せいかーい!どこまで呪霊を小さく出来るか試したんだと」
「ちょっと硝子!傑には言わない、」
「姉さん。嘘は良くないよね?」

笑顔で圧をかけられた名前は観念したのか話し始めた。
話しの内容から傑と同じ術式の彼女は辛そうにしている弟の為に色々と実験をしているみたいだった。
名前が怪我をする時は大体その実験の時でそれが今らしい。

「はぁーー。…結果はどうだったの?」
「弾け飛んで、ちょっと腹に刺さった」
「ちょっとどころじゃないけどなー」
「…もう二度としないで」
「でも飴くらいには出来たから今度教えてあげる」

無茶しないでと名前の手を取って頬擦りする様は事前情報が無ければ普通に彼氏彼女のそれだった。
硝子は慣れているのか見もせず無視して治療を続けているし、やっぱり俺だけ一年間知らなかった事に苛ついて医務室を後にした。

何故こんなにムカムカするんだろうか。
仲間はずれが嫌だったんだろう。
うん、きっとそうだ。



  
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