運命の邂逅


「悟さん!お待ちしてました!」
「名前遅くなってごめんね。今日も綺麗だねぇ。そのドレス良く似合ってるよ」
「ふふっ、悟さんはセンスがいいですから褒められると嬉しいです」

忙しいのにありがとうございますと感謝を伝えながら隣に座る。
私はホステスとしてこのクラブで働いている。悟さんは私の担当のお客様で前働いていたお店からお世話になっている。今では私のお客様で、まぁ下品な言い回しになってしまうけど、ツートップの一人だった。
私のお給料の半分くらいはお二人のお陰で成り立っております。感謝。

「悟さんが好きそうなスイーツ取り寄せておいたので良かったらどうぞ!」
「僕にお金使わなくていいっていつも言ってるでしょ?でも気遣ってくれたのは嬉しいからありがとね」
「本当優しいですよね」
「誰にでも優しい訳じゃないよ?」
「ふふっ人誑しなんだから」
「あ、好きなの飲みなよ?僕はあっまーい」「コーヒー?」
「さすが名前!本当好きだなぁ」

サングラスを外して蕩けるように微笑んだ五条さんは死ぬ程美しいけど、正直に言って良く分からない。
まぁ容姿に多少自信はあるが彼を前にすると私なんて霞んでしまうし、トークだって彼の方が一枚上手。私の何がいいんだろう?
前働いていたクラブの店前でお見送りをしているところ声を掛けて頂いてそれから一年くらいのお付き合いになるだろうか?
特に口説かれる事もなく(息をする様に好きだとか可愛いとかは言うけれど)良いお客様でいてくれてる。

「ありがとうございます。いつもの頂きますね」
「クリスタル?もっと高いのいれていいのに、好きだよねぇ。僕はぜんっぜん良さが分かんないよ」
「悟さんにも苦手な事があるって何だか安心しますよね。有能すぎるのも大変でしょう?」
「名前…本当好き!結婚しよ」
「ふふっ、酔っちゃいました?」
「飲んでないよ!飲めないの知ってるくせに」

笑いながらぎゅうっとハグされる。こんなやり取りも何度もしているが決して本気ではない。ときめくだけ無駄なのは学習済みである。
それにしても一年くらいのお付き合いになるのに何のお仕事をしているのかは教えてくれないんだよなぁ。前から馴染みのお客様なのと、毎回VIPルームに入るし飲み方も綺麗なのでお名刺を頂けなくても入店を許されているけれど、本当に謎の美青年って感じ。
私のお客様は年配の方が多いから本当に謎。

大好きなシャンパンと楽しい会話に美しい顔面。もう私がお金払わなきゃいけないレベルだよなーと思っていたら、コンコンとノックの後にドアが開いて跪いた黒服が小声で耳打ちした。

「…分かりました。悟さん、すみませんが」
「気にせず行っておいでー。ヘルプはいつも通り付けなくていいからね」
「すみません。すぐ戻りますね」

悟さんは私が抜ける時はいつも一人で待っている。一度申し訳なくて仲の良い子をヘルプに付けたら泣きながら部屋から出て来た事があったので悟さんが来る時は他のお客様と被らないようにしているのに。
一体誰なの。

「VIPルームに夏油様来店されてます」
「…お願い、冗談って言って」
「残念ながら、本当です!」
「えぇ。困ったな、二人が被る事なんてなかったのに…とりあえず十分着いたら抜いて下さい」

傑さんは私のツートップの一人。
悟さんと同じく謎につつまれた方で同じくヘルプは要らないと笑顔で圧力をかけてくるからどうしよう。
他のお客様なら嬉しい悲鳴になるのだろうが、二人には凄く良くして頂いているから不快な思いはさせたくないのに…。

「傑さん!お待たせしてすみません。急に来てくれるなんて珍しいですね」
「時間が出来てね。迷惑だったかい?」
「いえ、お会い出来ると思ってなかったのでびっくりしたけど、嬉しいです!」
「本当に君は可愛いね」
「ふふっ、ありがとうございます。ご一緒に頂きますね」
「どうぞ」

すでにワインのコルクが抜かれていてどれくらい待たせてしまったのだろうかとヒヤヒヤしたけどいつも通り優しい笑顔を浮かべているのでホッと胸を撫で下ろした。

「このワイン好きだったよね?」
「えっ?ふふっ、忘れちゃいましたか?傑さんが美味しいって言ってたから私も好きになったんですよ」
「あぁ、そうだったね。名前は私の事を良く覚えてくれていて嬉しいよ」
「今日は少しお疲れみたいですね」
「…何でそう思うのかな?」
「いつもより飲むペースが早いですよ?傑さんが真面目で優しいのは尊敬してますけど、たまには愚痴でも何でも吐き出してください。事情を知らない私になら言いやすい事もあるでしょ?」
「はぁー名前…連れて帰りたい」

ふわりとハグされた。辛い事でもあったのかな?傑さんが弱っているのなんて珍しい。
それにしてもその色気しまってくださいよ。
傑さんはきっとモテる。何人女性を泣かせてきたのだろうか。

「名前?」
「どうしました?」

パッと体を離したと思ったら目を細めて探る様に私の事を見ていた。え?何か気に触ることでもしてしまった?

「…すぐるさん?」
「もしかして…白髪の蒼い瞳の奴来てる?」
「え?」
「ざん、いや。いつもの君と香りが違うし、この香水は私の親友と一緒だと思ってね」
「…五条様ですよね?お友達でしたか。お会いしない方がいいですよね。黒服に伝え、」
「一緒に飲む事にするよ。案内してくれるかな」

えー!まさかの親友ですか??そんな事あります?!しかも笑顔が黒いんですけど、本当に親友で合ってますか?でも白髪に蒼い瞳なんてそうそう見かける容姿ではないし…私のツートップ、今日で終わりかもしれない…。
傑さんが立ち上がったので諦めて黒服に伝えて隣のVIPルームに案内した。

「名前、早かったね、って傑じゃん。…何で此処にいんの?」
「はぁ。名前から悟の匂いがしたからまさかと思ったけど。そのまさかだったとはね。」

おいでと言われてとりあえず間に座ったけど、親友の醸し出す雰囲気ってこんなに重たい物でしたっけ?にこにこしながら両隣からの圧が凄いんですけど。
あぁ私の高給も今月で終わりか…。
そろそろ夜をあがろうと思ってたから、まぁいいタイミングだよね。今までありがとうございました。

「傑の係って名前だよね?」
「あ、はい。担当させて頂いてます」
「悟の担当も名前だろう?」
「…ソウデスネ」
「僕、譲る気ないから」
「へぇ、気が合うじゃないか。私もだよ」
「…えっと親友?ですよね?」
「勿論!僕の唯一の親友だよ?」
「私も同じくね。そうだ、今日アフター行けるかい?」
「んー、アフターは」
「三人ならいいでしょ?」

まぁ、三人にならいいかな?普段ならアフターは絶対行かない主義だけど。ママにも五条様と夏油様のアフターくらい行きなさいって散々言われてたし、それにこの圧力は断りきれない。ここで私帰りますって言えるホステスいたら紹介して欲しい。女帝だよ。
後三十分程で閉店だしもうチェックして貰おうかな。サクッと行ってサクッと帰ろう。うん、そうしよう。

「なら私、着替えて来ますね」
「お店予約しておくよ」
「傑と楽しく話しとくからゆっくりどーぞ!」




  
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