掌で踊らせてあげる




「悟ー!今日も一本取ってやるっ!」
「生意気すぎでしょ。僕から一本取るなんて二度とないからっ!」

今年入学してきた苗字名前は伏黒甚爾を師と仰ぐだけあって体術のみなら悟にも劣らない。
身長は高いがスラッとした女性らしいラインのどこからあんな馬鹿みたいな力が出るのだろうか。
黒髪を揺らしながら悟を攻め立てている。
短いワンピースタイプの制服にニーハイソックスを合わせていてサイドのスリットから白い太腿が惜しげもなく晒されている。

「おい夏油、見過ぎでしょ」
「…悟が押されてるのを見ているだけだよ」
「むっつりかよ。そんな顔じゃなかったけど?」
「…」
「まぁいい。名前は私の妹分でもあるんだから、泣かしたら殺す」

じとりと睨む硝子に深い溜め息を飲み込んだ。
教え子なのは分かっているのだが、一目惚れなんだから仕方ないだろう?
そう私は名前の事が好きだ。
悟並みに距離感がバグってる彼女はまるで猫みたいに私の心を弄ぶ。
ひらりと目の前で色気を振りまいてふらりと消えて行くのだからタチが悪い。
五歳も下の女の子に転がされているのだから本当に笑えない。

「しょーこちゃん!見てた??」
「見てた見てた。すごいじゃん。それで怪我してないか?」
「硝子!どう見たって怪我してるの僕でしょ!」
「五条は自分で治しなよ」

よしよしと硝子に頭を撫でられている様は本当に猫みたいだなと眺めていたら急に紫の瞳が現れた。

「っ!」
「夏油先生も見てた??」
「あぁ、また強くなったんじゃないかい?」
「ふふっ次は先生倒すから覚悟しといてよ」

互いの鼻が触れそうだった。大きな紫色の瞳がスッと細められて硝子のもとに戻って行く。次は反転術式教える時間だからじゃーなークズ共と言いながら硝子と校舎に消えた。

「クッソ生意気!絶対あれ甚爾の血混ざってるよね?」
「悟もあんな感じだったよ」
「僕はもっと可愛げがあったでしょ!」
「はいはい」
「傑アレのどこがいい訳ー?…え?バレて無いと思ってた?!名前が男と喋ってるときすんごい黒いオーラ出してるよ?」
「…さっき硝子にも言われたよ」

私らしくもない。まさか悟まで気付いていると思ってなかった。思わず顔を顰めると悟はゲラゲラと爆笑した。この様子じゃ七海あたりにもバレバレなんだろう。

「はぁ。そうだよ。私は名前が好きだよ」
「お?開き直った?」
「…開き直ったついでに聞くけど、何で悟は呼び捨てで私は夏油先生なのか知らないかい?」
「えー?それ本人に聞きなよ。絶対面白いからさぁー!」

面白いのは悟だろうが。
まぁ、でも。これくらいは聞いても問題ない筈だ。にやにやと此方を見てる悟にはいはいと返しながら悟が絶対にいない時に聞いてみる事に決めた。



「夏油先生!久しぶりー!」

一週間ほど高専を開けていた名前は四国巡ってきたんですよーとニコニコしながら駆け寄って来た。

「おかえり。怪我はないかな?」
「しょーこちゃんみたい!この通り元気だよ」

硝子も悟も高専に居ないのは珍しい。
聞くなら今が絶好のタイミングだろう。
夏油先生?と下から大きな瞳を瞬かせながら見上げてくる名前を抱きしめたい衝動をなんとか抑えた。無だ。無になれ。私は仏だ。

「…名前は何で私のことを夏油先生って呼ぶのかな?」
「え?先生だからだよ」
「誤魔化さないで。悟に硝子ちゃんで私だけ違うだろう?」
「…ふふっ気になる?」

ここからはまるでスローモーションのように感じた。
綺麗に弧を描いた艶やかな唇。悪戯に細められた紫の瞳。妖艶な笑みに見惚れていると名前の両腕が伸びて来て頭を抱きしめられた。彼女の肩口に顔が埋まる。

「教えてあげる」

名前の唇が私の耳に触れた。

「…そうやって私の事で傑の頭の中を一杯にしたいから、だよ」

ちゅっとピアスをしているあたりに柔らかく暖かい感触とリップ音を残して離れていった。何も無かったかのようにじゃあ任務行ってきまーすと間伸びした声が聞こえて再び時が動き出した。

「やってくれるじゃないか」

どうやらもう抑える必要はない様だ。
何が仏だ。
そっちがその気なら私も好きにさせて貰おうじゃないか。
彼女を追いかけて後ろから抱きしめる。

「っ!夏油先生?」

名前の小さな耳に唇を寄せた。

「私を弄んだ悪い子にはお仕置きが必要みたいだね?」

手を緩めると紫色の目を見開いた彼女がくるりと此方を向いた。いいね、そういう顔も出来るんじゃないかと口元が緩むのを感じた。
ふぅっと目を伏せて長く息を吐く名前。
長い睫毛が持ち上がり再び目が合うと私を射抜くようにギラギラと紫色が輝いていた。

「夏油先生。卒業までの長期戦かと思ってたんだけど、私もう我慢しないから」
「は?」

抜けた声が出たと思ったら口付けられていた。冷たくて薄い舌が私の唇の隙間から入ってきて誘うように撫でる。
あぁ結局は名前に最初から負けっぱなしだったのだ。
理性が一枚ずつ彼女によって剥がされていくのも悪くないが此処からは私も負けてられないから。
全力で私しか見れなくしてあげるよ。


「傑、もう逃がさないから」
「臨むところだよ」





  
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