違わぬ覚悟


おかしい。彼女に電話をかけてから3時間あまり。掛け直しもなく、メッセージも既読が付かない。
凄く嫌な予感がする。

「伊地知。今日後一件で終わりだよね?」
「はっはい!その予定ですが…どうかされました?」
「その後絶対に追加入れないで。」
「….わ、分かりました」

次の任務は都内で良かった。
秒で祓って伊地知を家に向かわせる。
未だに連絡は付かないままだ。


「!!伊地知!止めて!!」
「えっ、もうすぐご自宅ですけど」
「いいから!」
「っは、はい!」

戸惑いながらお疲れ様ですと言っている伊地知を残して車から飛び降りた。
自宅まであと10分も掛からない辺りで彼女が歩いているのを見つけた。

「名前!!」

彼女の細い腕を後ろから掴む。

「え?!五条さん?なんでここに」
「それは僕の台詞だよ。何回も連絡したんただけど」
「え!そうなの?!ごめんなさい。五条さんより早く帰れると思ってたから、携帯家に置いて来ちゃった…」
「はぁ、僕がどんだけ心配したか…」

今日は昼過ぎからずっと名前の事が心配で気になっていた。
気が立ってついビル一棟潰しちゃったし、無駄に伊地知に当たっちゃったし、なんなら糖分摂取も忘れるくらい。
何故こんなにも心配で焦ってしまっていたのか。
重症だね。
これはもう誤魔化せないでしょ。

「元カレに会って来たの。万が一を考えて携帯持って行かない方がいいかなって」
「は?一人で?!馬鹿じゃない?」
「私も馬鹿だと思う。でもどうしてもケジメを付けておきたかったの」

彼女の顔を見ると左頬が少し腫れている。

「…殴られたの?」
「あ〜最初は凄く怒って興奮してたから…でも話したら大丈夫だった。何であんな事をしてしまったのかって泣きながら謝ってたよ。やっぱり呪力のせいだったんだね」

名前の頬に手をそっと添える。
僕の手にすっぽりと収まってしまう小さい顔。何でそんな危ない事をするの?もし呪力が関係無くてまだ君の事を探してたらどうしてたの?

「五条さん心配かけてごめんなさい。でもどうしても自分で終わらせて置きたかったの。これぐらい自分で出来なきゃ……五条さんの世界で、生きて行けないと思ったから」
「え、それって」
「私は呪術師になりたい」

いつもにこにこして柔らかい彼女の瞳は力強く僕の瞳を見つめている。

「いつ死ぬかもわからない地獄だよ?」
「五条さんがいるならそれでも構わない」
「本当に君は…はぁ〜。分かったよ。その代わり…」
「そ、その代わり?」
「僕はちょ〜スパルタだから覚悟してよね」
「ふふっ!ありがとう五条さん!」

僕の事なんて忘れて普通に幸せに生きていて欲しかったのに。
そんな瞳で見つめられたらもう手放してやる事は無理そうだ。
いや、始めから手放す気なんて無かった。
本当は僕と生きて欲しかったんだ。
最高の口説き文句を言ってくれた彼女の選択を後悔させない様に僕も覚悟を決めるよ。




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