『ただいま。
ナギニ、起きてますか?』

『あぁ。おかえり、アリス。』



部屋に入る扉を開きながら、中に入るであろうナギニに向けて口を開いた。

起きているか起きていないかは半々の確率でわからなかったが、どうやら起きていたようだ。

ナギニは私のベッドの上でとぐろを巻きながら、あの黄金に輝く瞳をこちらに向けていた。

開いた扉を閉めながら、いつも通りの落ち着いた様子のナギニに微笑みを向ける。

すると、ナギニは目を瞬いたように言葉を呑み込んだ様子になった。



『ずいぶんとご機嫌だねぇ。どこに行ってきたんだい?』

『そう、ですかね。
ちょっと…気分転換に。』

『へぇ。まぁ、たまにはそれも必要だろうね。』



最近暗い様子だったから、安心したよ。

そう言われて、ほんの少し胸の奥が痛んだ。

心配を掛けてしまっていたことに、申し訳なくなる。

ベッドに近づき、その上にいるナギニに手をのばした。

艶のあるそのなめらかな身体を触れば、ひやりとした冷たさにほっと息を吐いてしまう。

ナギニの身体の温度には、もうすっかり慣れてしまった。今では、この冷たさが心地いい。

ゆっくりとベッドに腰掛けると、ナギニはズルリとその身体を這わせて寄ってきた。



『ナギニ。身体は、つらくないですか?』



何度目かのこの言葉。この時期になると、頻繁に使うようになる。

もう何度聞いたかも知れない言葉に、ナギニは少しも気を悪くした様子を見せないで優しく頷いた。

私は自然とほっと安堵の息を吐いていて、身体を倒してナギニの身体に頬を寄せる。

ここまでついてきてもらったのは、本当にありがたかった。

ナギニがいてくれるおかげでどれだけ気が楽になるのかはもう計り知れない。

甘えるように頬をすり寄せると、上からクスクスという笑い声が聞こえてきた。



『これからまた、寒くなるね。』

『ん…そう、ですね。』

『無理して、身体を壊すんじゃないよ?』



たそがれるように瞳を閉じていると、ナギニはおどけたように注意の言葉を掛けてきた。

冗談めいたように笑うナギニに、私は目を細める。

こくりと頷くと、ナギニは満足そうに顔を寄せてきた。

頬にナギニの顔が寄せられ、あの冷たくくすぐったい感覚に笑ってしまう。

口元に笑みを綻ばせたまま、私はぽつりと言葉をもらした。



『私、頑張ります。』

『…。』



何を、とは言わなかった。言わずとも、ナギニはわかったはずだ。

ナギニはまるで咎めるように、また頬に顔をすり寄せる。

けれど何も言わないナギニに、私は小さくお礼を囁いた。

そしてふと今日のことが頭をよぎっていく。



『…ルシウスに、ドラコのこと教えてあげないと。』



くすと笑みを綻ばせながら、今日のドラコの様子を思い出しながら呟いた。

ルシウスにドラコの様子を教えてほしいと手紙にあったことを思い出す。

また後で、二人に手紙を書こう。そう思いながら、私はナギニの身体をそっと抱きしめた。

ナギニは静かにそれを受け入れながら、あやすように尾で背中を撫でてくれていた。





賢者の休息

(みんなの大切さを、あらためて知る)

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