暗い森の中を私達はハグリッドを先頭に歩いていた。

木が生い茂っているのであろうそこは光を通さず、後ろを振り返ればホグズミード駅の微かな光が見えるが他には何もない。

前に見える光は、ハグリッドが掲げているランプだけだった。

足元が見えないので皆はよくつまずいていた。そのたび、ハグリッドは迷うんじゃないぞと声を上げた。

私に絡んでいるナギニは森の中ということもあってか、あの黄金の瞳をギラギラと輝かせていた。

私はナギニの身体の重みも感じながらひたすら歩いていた。

今は何時頃なのだろうか。どこからか腹の虫が鳴るのを聞き、私はぼんやりと考えた。

こんな暗い森の中をいつまで歩くんだという文句も聞こえていたが、やがて誰も何も言わなくなった。

私の隣を歩いているハリーは、ぎゅっと口を引き結んでいた。

しばらく歩くとハグリッドがホグワーツが近くなってきたことを告げた。

皆はその言葉に大喜びで、歓喜の声をそれぞれ上げていた。

ある角を曲がると、今まで狭かった道が嘘のように視界が開けた。

目の前に見えたのは黒い大きな湖だ。

月の光がその水面を照らし、キラキラと輝いていた。

その湖を渡ったところには高い山がそびえ、その頂上に立派な城が建っていた。ホグワーツ魔法魔術学校だ。

高さの違う塔がいくつも並んでいて、その窓からはキラキラと光がもれだしていた。

水面の光とその光が暗い空に浮かび、星のようだと思った。

ハグリッドは私達にボートで向こう岸まで渡ることを告げ、四人ずつボートに乗り込んだ。

ボートには松明が掲げられていて、オレンジ色のその炎は心地よく私達の心を解していった。

ハグリッドの指揮でボートは進み始め、キラキラ輝く水面をすべるように進んだ。

ハグリッドはボートに一人で乗り、先頭を進んでいた。

皆は大きくそびえ立つホグワーツ城を見上げ、気にするのも忘れたかのようにあんぐりと口を開けて見上げていた。

ホグワーツ城の幻想的で神秘的な姿を皆は口々に称賛した。

私の身体に絡んでいるナギニは顔を上げ、黄金の瞳をじっとホグワーツ城に向けていた。

そんなナギニに私は綺麗ですね、とそっと耳打ちした。

ナギニはしばらく見ていたがふいと顔を背け、私の首元にその顔を埋めた。

私はホグワーツ城を見上げながら、そういえば外からこんなに近くでホグワーツ城を見たことがなかったと思っていた。

ハグリッドの指揮でボートは進み、心奪われているうちに地下の船着き場に着いた。

そこでボートを降り、地上へと上がる。

大きく壮大な門をくぐり、玄関ホールを皆はきょろきょろと見回していた。

ずっと首を上げていたので、首は固まってズキズキと痛くなっていた。

ハグリッドは正面に見える階段を上り大広間へ行けと告げると、先頭から外れてどこかへ行ってしまった。

私達は石畳の床を歩き、大理石の立派な階段を上っていった。

ふと私が顔を上げると、大広間の扉の前の踊り場にエメラルド色のローブを着てとんがり帽をかぶった魔女がいるのに気づいた。

暗い色の髪をひっつめて上げ、少しの乱れもなく結っている。

四角い彼女の眼鏡の奥には、威厳のただよった瞳が輝いていた。

ミネルバ・マクゴナガルだ。私はその姿に口元を緩めた。

彼女は階段を上がってくる一年生の列の中から私の姿を見つけ、静かにその瞳を細めた。

私達が踊り場につくと、マクゴナガル教授は高々と声を張った。



「ようこそホグワーツへ!」



マクゴナガル教授は凛とした声で祝福の言葉を言った。

よく響くその声に、皆の緊張が高まったのを感じた。

それも仕方がないと私は苦笑した。マクゴナガル教授の顔つきは厳格そのもので、逆らってはいけない先生というレッテルをすぐに貼られるだろう。

びくりと肩を跳ねさせた皆に、マクゴナガル教授はぱんと手を鳴らした。



「さて!今からこのドアをくぐり上級生と合流しますが、その前にまず、皆さんがどの寮に入るか組分けをします。」



マクゴナガル教授の言葉に皆は目を瞬かせた。

組分けとは一体何だろう。どういうことをするのだろう。

不安をのぞかせた皆の様子をマクゴナガル教授はしっかりと見回しながら言葉を続けた。



「グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー…そしてスリザリン。
学校にいる間は、寮があなた方の家です。」



マクゴナガル教授の話を、皆は声も出さずにじっと聞いていた。

隣にいるハリーは不安げで、ロンは落ち着かなさそうだった。

マクゴナガル教授は生徒一人ひとりの顔を覚えるかのように見ていく。

その視線に捕らえられた生徒は、ドキリと緊張に息を呑んでいた。



「良い行いをすれば寮の得点となり、規則を破ったりすれば減点されます。
学年末には、最高得点の寮に優勝杯が渡されます。」

「っ、トレバー!」



マクゴナガル教授の話している最中、ゲコゲコというカエルの声が聞こえてきた。

ナギニが鋭く反応したのでふとそちらに目を向ければ、マクゴナガル教授の足元に手のひらほどの大きさのヒキガエルがいた。

それを見た男の子が歓喜に声を上げ、ヒキガエルを抱き上げる。

この男の子は、おそらくネビル・ロングボトムだろう。

静寂が訪れたかと思うと、マクゴナガル教授はネビルを眉根を寄せて見ていた。

ネビルはごめんなさいと呟き、クスクス笑いが聞こえる中でもといた場所に戻っていった。



「…間もなく組分けの儀式を始めます。」



呆れたようなマクゴナガル教授は厳しい声でそう言い、身を翻して大広間に入っていった。

ナギニはまた不満げにシューと音を鳴らし、首元に顔を埋めた。

ひんやりしたナギニの肌に、私は思わず身震いする。

心配げに視線を寄越してきたハリーに、私は微かに微笑みかけた。

その時、しんと静まりかえったその場に気取った声が響きわたった。



「本当なんだ。」



その声に、私達は自然と顔を向けていた。

その視線の先には、品のあるプラチナブロンドの髪をしっかりと固めた男の子がいた。

その男の子はせせら笑ったような表情をしており、手すりに身体を預けていた。

私はその姿を見て、すぐに誰だか理解する。

ドラコだ。ドラコ・マルフォイ。ルシウスとシシーの一人息子。

最近見た写真の通りだ。あんなに小さかった男の子が嘘のように立派に成長している。

私はドラコの姿を見て、口元に笑みを描いた。

しかしドラコの視線は私の隣にいるハリーに向けられていて、あの気取った声で話を続けた。

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