黒いくしゃくしゃの髪。色は違えど、父ジェームズ・ポッターにそっくりだ。

小さいその顔には、細い銀の縁をした眼鏡がかけられている。

その眼鏡にはひびが入っていて、あちこちにセロテープが貼ってあった。

その眼鏡の奥には、綺麗な緑色の瞳。

母リリー・ポッターの瞳だ。アーモンド型の、明るいグリーン。

容姿はジェームズにそっくりだが、瞳だけはリリーだった。

私は釘づけになりながら、もう一度彼の名前を呟いていた。



「ハリー……。」

「あの…っ?」



私の声に、彼は戸惑ったように首を傾げた。

同時にナギニは私の首に埋めた顔を上げ、彼の座っていない空いた方の席に這い移る。

彼は大きな蛇の姿を見て、ぎょっと目を見開いた。

そんな彼を見ながら、私はドキンと跳ねている心臓を感じていた。

ハリーだ。ハリー・ポッター。ジェームズとリリーの息子。

そして"彼"がその身を滅ぼす原因となった男の子。

私は胸が熱く焼けるのを感じた。

じわ、と熱い何かが溶け広がる。

じっと見つめてくる彼の姿に、私は唇を震わせた。



「…ハ、リー…、ハリー…ハリーっ!」

「っ、わ!」



私は視界が歪むのを感じながらハリーに手をのばした。

ハリーが、すぐ目の前にいる。

それだけで、涙が頬を伝うほど胸が締め付けられた。

ハリーはそこに根が張ったように動かずにいた。

静かに涙を流しながら、私は堪らずハリーを抱き締めた。

ハリーは驚いたように肩を跳ねさせる。

けれど見知らぬ女生徒に抱き締められたのだから、その反応は当然だろう。



「き、君は……っ。
ぁ…だい、じょうぶ?」



戸惑った声が聞こえ、その途中でふるふると頭を振ったかのように身体が揺れた。

ふと顔を上げれば、キラキラ輝いた緑の瞳と目が合い、ハリーは私を見ながら呟いた。

少年の高い声は不安げに揺れていた。

けれど私を心配している優しい言葉。その言葉に、私は自然と顔を綻ばせていた。

私がおもむろに微笑むと、ハリーはぎゅっと口を結んで息を呑んだ。

ちょうどその時コンパートメントの戸が開かれ、ひんやりした心地いい空気が流れ込んできた。



「ねぇ、そこ…すわっ……。
…ごめん。そんなつもり、なかったんだ。」



開かれたコンパートメントの戸から、不安げな声がかけられた。

しかしそれはすぐに止められ、呆然とした声色に変わる。

その言葉に、ハリーがびくりと身体を反応させた。



「えっ、ぁ…いや、っあいてるから…!」

「あ、あぁ。
ありが…っ、うわぁ!」

「…ぁ。」



ハリーの言葉に戸を閉める音が聞こえ、少年の間の抜けた悲鳴が聞こえてきた。

その反応に、ハリーがはっとしたのに気づいた。

私は慌てて身体を起こし、ハリーから離れた。

後ろを振り返れば、席を陣取っているかのようにナギニがくつろいでいる。

先ほどまで人混みの中にいたのでさすがに息がつまってしまったのだろう。

私は静かにナギニに手をのばした。

ナギニはため息でもこぼしそうな様子で私の腕に這い上がってくる。

呆気に取られたかのように見つめてくる彼らに私は顔を俯かせた。

コンパートメントの戸の前に立ち竦んだ少年は、こちらの様子を見ながらすとんと腰を空いている席に下ろした。



「あの…君も、座ったら?」



俯いて立っている私に、ハリーがおずおずと話しかけた。

その言葉が信じられずばっと顔を上げるとハリーは驚いたように目を見開き、微かに微笑んだ。

細められた明るい緑の瞳。

リリーの姿を思い出し、私はドキンと跳ねた心臓を感じた。



「ぁ…あり、がとう…ございます。」

「っ、」



涙にぬれた目元をぎゅっと擦りながら言うと、ハリーは視線を泳がせた。

ハリーはナギニをそんなに怖がっていないようだ。後ろでびくびくとしている少年の気配に、私は苦笑した。

掠れる声でそう言い、私はハリーの隣に座った。

ナギニは私の膝の上でとぐろを巻き、身体を休める。

そして、ナギニは笑っているような声色でぽつと呟いた。



『アリスは本当に泣き虫だねぇ。』

「…ぇ?」

「あ、ぅ…さっきは、すみませんでした…。」

「いっ、いや…いいんだ。」



ナギニの言葉に、ハリーが首を傾げた。

そうだ。ハリーにはナギニの言葉が聞こえている。

私ははっとして、もう一度目元を押さえてここぞとばかりに声をかけた。

その言葉に、ハリーは微かに頬を染めて頷いた。

そんなハリーに一瞬ナギニが視線を向けたが、それはすぐに逸らされた。

私達のことをじっと見ていた前に座った少年が、眉を寄せ理解できないという様子で呟いた。



「え?君たち、知り合いじゃなかったの?」

「ぁ…うん。」

「へぇー。」



ハリーの頷きに、少年は驚いたように言った。

私はハリーから前に視線を移し、初めて少年の姿を見た。

燃えるような赤毛。その髪と対照的で、瞳の色はキラキラと輝くブルーだ。

彼の顔には点々とそばかすが散らばっていた。高い鼻の横には泥がついていて、茶色く汚れていた。

その容姿に、彼の名前がふと思い起こされた。

ロナルド・ウィーズリーだ。ハリーの一番の親友になる人物。

私は目を瞬いて彼を見つめた。

すると彼は気をよくしたように口元を緩め、私と隣のハリーを見た。

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