あの人に会いたい、と真剣に考えるようになったのはいつ頃からだろう。
無理だって分かってるのに。
そんなこと、あり得ないって。
それくらい私にだって分かる。
私は甘やかされて育ってきたって、自分で知ってる。
だって、お父さんもお母さんも、何でも買ってくれるんだもの。
小さい頃は、それが誇らしかった。
皆より上に立てている気がして。
自分は特別だって言われているような気がして。
幼いながらの優越感を覚えていたの。
でも、それはもう卒業。
今はむしろ、親に申し訳なくて仕方がない。
長い息を吐きながら、身体を優しく包み込むベッドに身を深く沈ませた。
そして、結構な広さの自分の部屋を軽く見回す。
壁につけられた本棚には、私の大好きな小説たち…。
全部、両親が買ってくれた。
お小遣いを貯めて自分で買おうとしたときもあったけど、結局なぜか自分では買ってない。
どこからの情報かわからないけど、私が欲しいと思った本は、両親が買ってくるから。
でも、そこは本当に感謝してる。
そうでなければ、こんなにも心満たされることはなかっただろうから。
「…、」
はぁ、と一つため息を吐いた。
満たされているはずなのに、何かが足りない。
私はどこまで貪欲になっているのだろう。
自己嫌悪さえしてしまう。
あの人に会いたい、と考えてしまうなんて…。
自分でも、バカバカしいと思う。
だって、そんなことは天地がひっくり返ってもムリなことだもの。
あの人は、この世界にはいない。
…いるはずがない。
小説の中の、登場人物だから。
私が何よりも愛している小説の、登場人物だから。
容姿はぜんぶ、想像だけど…あの紅くて鋭い瞳が好き。
あの人は、綺麗な発音をして流れるように英語を話すのだろうか。
英語は話すのも聞くのも苦手だけれど、あの人の声が聞けるのならいいかもしれない。
そんなことを考えていて思う。
すっかり彼にハマってしまっている、って。
でも、悪い気はしない。
むしろ安心すらしてしまう。
私が誰よりも会いたい人…。
"Harry Potter"の登場人物。
"ホグワーツ始まって以来、最高の秀才"と言われていたあの人。
トム・リドル…。
「…ヴォルデモート卿…。」
貴方に会いたい。
私は、そう言葉にならない声で呟いた。
神様、お願いです。
もしもあなたがいるのなら、私のお願いを聞いてください。
受け入れてください。
馬鹿だと笑ってもらって構いません…。
私を…あの人と、会わせてください。
そう頭の中で呟いてゆっくりと瞳を閉じれば、意識はやがて遠くなった。
そしてとても深く、心地良い眠りに…落ちていった。
いつも想ってた
(神様は、彼女の愛を受け入れました)
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