時間が止まってしまったかのようだった。
リナリアの言った言葉が…うまく理解できない。
きょとんとしたその顔、手に持っている仁王のお姉さんがくれた下着。
そして、その姿を見て、やっと状況が読み込めてきた。
「せーいち、せーいち!
これ、なに?」
リナリアが、首を傾げて聞いてきた。
リナリアが持っている下着は、彼女から伝わる水滴で少し濡れてしまっている。
「なっ…な、なッ…!」
「ッ、…。」
すぐ後ろの方で、真田が小さく唸っていた。
顔を真っ赤にさせて、どこに目をやればいいのか分からない、というように目を泳がせている。
他のレギュラー達も、仄かに頬を紅潮させていた。
目線を下に下げて、リナリアを直視しようとしない。
…確かに、今のリナリアを見ろ、というのは無理というものだろう。
体にバスタオルは巻いているが…いや、もう肩に掛けているに近いのだ。
髪からポタポタと滴り落ちている水滴は、そのタオルを少しずつ濡らしていっていた。
「ねぇ、せーいち?」
不思議そうに上目で見上げてくる淡いブルーの瞳はキラキラしていた。
風呂の影響で少し紅くなった頬…そして、バスタオルから覗くその白い肌に、顔が熱をもつ。
「えっと…ッ。」
「せーいち?」
「ッ、」
どうしたらいいのだろう。
着方がわからない、と言われても…説明しただけで分かってくれるのだろうか。
手っ取り早いのは俺が着けてあげることだろうが、そんなことは出来ないに決まっている。
助けを求めるように蓮二に視線を移すと、曖昧に微笑まれた。
"俺ではどうすることも出来ない"
そう言っているのが自然と分かった。
頼みの綱が切れたかのようだ。
キラキラしたリナリアの瞳は、じっと俺を見つめていた。
「せーいち、着せて…?」
「…え…?」
「わたし、着方わかんない…。」
「…ッ。」
しゅん、としたように言われて、まるで俺が悪人になったかのようだ。
伏せられた綺麗な瞳…そして、垂れた耳。
思わずドキリと高鳴ってしまった胸を、必死に叱りつけた。
けれど今の俺は動揺しているようで…うまく自分を落ち着かせられない。
リナリアの姿を変に意識してしまって、目が合わせられなかった。
元々は猫だったとしても…女の子のなのだ。
見られるわけがないだろう。
するとそんな俺に追い打ちをかけるように、服の裾が引っ張られた。
「着方…わかんない…。」
もう一度、まるで何かを求めるようにリナリアは呟いた。
思わず、うっと言葉に詰まってしまう。
リナリアは着方だけではなく、きっとなぜ着なければいけないのかもわかっていないだろう。
だから着方もわからないのだ。
俺は一体どうしたら…。
まるで堂々巡りだ。
先程からずっと同じことを繰り返し考えている。
早く、何かしらの方法を考えないと…リナリアが湯冷めして風邪を引いてしまうかもしれない。
無意識に、唾を飲み込んでいた。
…覚悟を決めなければ。
俺はゆっくりと顔を上げて、リナリアを真っ直ぐに見据えた。
リナリアもじっと見上げていて、視線が絡み合う。
彼女の絹のような白く滑らかな肌に、やはり、気恥ずかしいような気になる。
けれど、目を逸らすな、と自分に言い聞かせた。
覚悟を決めて、口を開く。
「…リナリア。」
俺がそう呼ぶと、リナリアの耳はピクリと動く。
キラキラッと瞳が輝いた。
「わかった。
…おいで、俺が着せてあげるから。」
「っ、うん!」
レギュラー達は驚いたように俺を見た。
けれど、他に手段はないだろう。
とにかく、ここで着せるわけにもいかないので脱衣所へ向かおうとドアに手をかけた。
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