彼女の耳が、インターホンの音に小さく反応する。
幸村はそんな彼女を横目に、部屋のカーテンを薄く開けて外をのぞき見た。
「ッ!」
外にいたのは、なんと、テニス部のレギュラー達だ。
しかも、きっちりと七人全員が揃っている。
家に訪ねてきたのは、いつもなら、まだいいとしよう。
だが、"今"は状況が悪い。
そもそも、この子はどうしようか…。
毛布にくるまりながら、体温も大分落ち着いてきたと見える彼女に視線を移す。
目が合うと、首を傾げ、きょとんとした表情をされた。
頭の中が、すごい速度で回転する。
レギュラー達は、一体何の用で来たのだろう。
まず、彼女のことは何と説明すれば…?
そんな幸村の思考を急かすように、またインターホンが鳴った。
「ッ、!」
もう、あれこれ考えている場合ではない。
待たせてしまうと、逆に怪しく思われてしまうかもしれない。
幸村は身を翻すと、ベッドに座っている彼女と目を合わせた。
「いいかい、ちょっと俺は出るけど…少し、待っててくれないかな?」
「?…にゃ。」
「ありがとう。」
彼女は少し首を傾げたけれど、頷くように顔を動かしたので、イエスと受け取っておこう。
ベッドに座っているのをしっかりと確認して、俺は急いで部屋を出た。
階段を駆け下り、早足で玄関まで向かう。
彼女が…何もしていなければいいのだが…。
そんな不安を抱きながら、鍵を開けた。
扉を開けば、夕日で赤く染まっている空が目に飛び込んでくる。
「あーっ!幸村部長!!
遅いじゃないッスか!」
すぐに、あの後輩の声が聞こえてきた。
なぜ今日の、今訪ねてきたのだ、という概念が捨てきれず、思わず眉を寄せてしまった。
「ごめん、少し…いろいろあったんだ。
…それで、みんな揃ってどうしたんだい?」
「む、俺達もそんなときにすまなかったな。」
弦一郎が、少し眉を下げて言ってくる。
赤也は、後ろの方に引っ張られ、仁王と丸井にちょっかいをかけられていた。
すると、今度は蓮二が少し前に出てきて、口を開く。
「少し長話になりそうだが…いいか?」
「…。」
蓮二の言い方だと、家の中で話をさせてはくれないか、そう言っている。
それは正直言ってしまうと、…まずい。
彼女が、ずっと大人しくしていてくれるのかが不安だ。
家にこんな大人数が上がってきたら、彼女が下に降りてきてしまう確率が高くなってしまうだろう。
幸村は眉を寄せながら考えていた。
そんな幸村は、今、皆の表情が固まっていることに気づくことが出来なかった。
仁王は皆の気持ちを代弁するかのように、幸村に声を掛ける。
「のう、幸村…。」
「何だい?」
「その…ずっと気になってたんじゃが…。」
「?」
仁王は、無意識に唾を飲み込んでいた。
緊張した面持ちの仁王に…いや、レギュラー全員に、幸村は疑問を覚える。
一体何だ?
何を気にしているのだ?
眉を寄せた幸村に、仁王は覚悟を決めた。
幸村を、指で指す。
…いや、正確に言うと幸村の後ろを、だ。
「後ろにいるのは…誰じゃ?」
「は?」
もしや、と心の中で嫌なサイレンが鳴った。
いや…そんなこと、あるはずがないと自分自身に言い聞かせる。
ゆっくりと振り返れば、その願いは崩れ落ちた。
「ゆきむら、せーいち!」
彼女が、すぐ後ろに、いた。
幸村が肩に掛けてやった毛布をぎゅっと握って、そのままずって来たような姿で。
あのふんわりとした可愛らしい笑顔を咲かせながら。
思わず、表情が固まってしまった。
みんなに視線を移してみれば、どこか好奇心のある目をしている。
…逃げられない、そう思った。
幸村は諦めたように一つため息を吐き、レギュラー達に中へ入るよう促した。
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