護衛役



「は!?ふざけんな、何勝手に決めてんだよ」

委員長の衝撃発言に、案の定律はブチ切れた。各々の仕事をしていた風紀委員が、何事かと一斉にこちらを見る。遠野くんも、律の剣幕に怯えている。

「もう先生にも届出はしてある。今から取り消しは出来ない」
「ぜってー入らねえ」
「お前には榎本の護衛をしてもらいたい。榎本は見た目がいいから、1人で歩いてると危ないんだ。同室者のお前なら都合がいいだろ」

え、いや、ちょっと待って下さい…。
俺は別に護衛なんていらないんですが、と口を挟みたいが、2人の言い争いに口を挟む度胸はない。
律は言葉が出てこないのか、歯ぎしりすると一度こちらを見て、俺を睨みつけた。あまりの恐さに後ずさる。

「別に風紀に入らなくたって護衛できるだろ!」
「風紀委員になった方が色々と便利なんだ」
「〜っ、俺は絶対入らねえ!!」

律はそう吐き捨てると、ソファから立ち上がり扉の方へ大股で歩く。その背中に、委員長が言葉を投げ掛ける。

「親父にバラしてもいいのか」

ピタ、と律の足が止まった。そして両方の拳をギュ、と握りしめたかと思うと、「言いたきゃ言えばいいだろ」と言い残し風紀委員室から出て行った。勢いよく扉が閉まり、激しい音が委員室に響く。そのあと居心地の悪い沈黙が続いた。委員長はその間も表情をピクリとも変えることがなかった。俺と遠野くんは目を合わせ、この空気どうしよう、とアイコンタクトを取る。

「榎本」
「は、はいっ」
そんな空気の中、委員長が俺を呼んだ。

「気を悪くしないでくれ。お前がひ弱だとか頼りないとか思っている訳じゃない。ただ、泉と同じで心配なんだ。今日も1人で行かせて後悔した。あいつが風紀委員になって、お前と一緒に行動してくれれば俺も泉も安心できる。分かってくれるか?」

その言葉に、俺は心を揺れ動かされる。俺が三宅に襲われかけたことを先輩はずっと気にしてくれていたのかもしれない。心配されるって、すごく有難いし嬉しいことだ。一気に体温が上がる。

「大丈夫です、分かってます。…俺も、律が風紀委員になってくれたらすごく嬉しいです」
「…そうか」
委員長はどこか安心したような笑みを浮かべる。その隣で、遠野くんがじっ、と俺を見ていることに気づく。不思議に思ったが、委員長の次の言葉に気を取られた。

「…実はさっそく榎本とアイツに頼みたいことがあるんだ」
「え、なんですか?聞かせてください」
俺が若干前のめりになってそう言うと、委員長は少し迷うようなそぶりを見せてから口を開いた。

「最近部屋に引きこもっている生徒がいて困っていると先生から相談を受けたんだ。それで2人にその原因を探ってもらおうと思ったんだが…。」

引きこもり…。気になるな。

「やります。なんていう子ですか?」
「後で詳細をメールで送ろう。ただし、絶対に1人で行動しないこと。律が動かないようだったら俺に相談。分かったな?」
「はい」

そんなに俺は頼りないのか…とつい思ってしまうが、さっきの委員長の言葉を心の中で復唱して男としてのプライドを持ち直す。
誰かのお腹が鳴って、時計を見たらもうすぐ19時になろうとしていた。委員長が「よしじゃあもう今日は終わりにしよう、みんな帰る準備をするように」と大きな声で言い立ち上がる。

「榎本も今日は疲れただろ、もう帰っていいぞ」 「はい、じゃあ失礼します」

バッグを持って風紀委員室を出ようとする。すると、「榎本!クッキーうまかった!また作ってきて!」と少し離れた所から同じ学年の戸田に言われ、笑みがこぼれた。「オッケー」と手を上げ、委員室を出る。

律も風紀委員になればいいのになあ。それなりに楽しいし。何であんなに拒むんだろう。
あ、芦名くんから連絡来てるかな。スマホの画面を見るが、なんの連絡も来ていなくて肩を落とす。きっとまだ寝てるんだ。

自販機を通り過ぎようとした時、急に炭酸が飲みたくなって立ち止まる。お金を入れてボタン押す。ルーレットが回って、番号が4つ並んだ。どうせ当たらないだろうとボーっと眺めていたが、4444と出たのを見て目を見開く。え、当たった!
慌てて2本目を選ぶが、慌てすぎて飲めないブラックコーヒーを選んでしまった。最悪。律、コーヒー飲むかな?
炭酸とコーヒーを自販機から取り出していると、後ろから「先輩!」と声をかけられた。遠野くんだ。





back 15/33 go


top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -