小説 | ナノ


▼ T

時計の針が2を示す頃、ようやくトラファルガー=ローは分厚い本の表紙を閉じた。
『ターヘル アナトミア』と背表紙に書かれたタイトルは何回も読んだせいで掠れて消えかけている。
普通の子供なら読まないであろうその本を持ってローは書庫から出た。
暗くて長い廊下をランプ一つで照らしながらローは歩きだした。
静かな空間に自分の足音だけが響きわたる。
ふと一つだけ、わずかに光が漏れている部屋があった。
無機質な蛍光灯の明るさではなく、オレンジ色の淡い光。
部屋からは途切れ途切れに「……っあん!……あ、ぁあ!」と喘ぎ声が聞こえてくる。
ちらりとドアの隙間から覗くと、一人の若い女がドフラミンゴの腹の上に座っていた。
ギシギシとベッドを軋ませて、
「あぁ! いいっ! 若様ぁ!!」
と豊満な乳が揺れるほどに腰を動かしている。
それを見てローは一人ため息をついた。

(ーーまたか)
(飽きもせずによくやるもんだな)

ローがドフラミンゴのそういった行為を目撃したのは、何もこれが初めてというわけではない。
ジョーカーという裏の名前を持つ悪のカリスマ、ドフラミンゴの周りには沢山の愛人を侍らせている。
選り取り見込みの中で好きなものを好きなだけ食べられるとしたとき、それに手を出さない奴はいないだろう。

ひときしり動いて果てたらしく、女が彼の上から降りた。
なんやかんやで行為の終わりを見たのでローは部屋に帰ろうとしたとき、誤って手から本が落ちた。
ローの顔から血の気が冷める。
無情に落下した本は床でバタンと音を立てた。

(やべえ!)

恐る恐る部屋の中を覗いてドフラミンゴの様子を伺う。
ゴロンと寝転がったままこちらに背を向けた彼はピクリとも動かない。
どうやら気づいてないようだ。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、ローは本を拾い上げてそこから足早に歩き去った。


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