紫水晶の君





 薬指に飾られた紫色の輝きが、くすぐったくて心地良い。
 カーテンの隙間から差し込む月明かりにそれをかざせば、その輝きは一層美しく感じられた。手を動かしキラキラと反射させては笑みを浮かべ、まるで幼子のようにはしゃいでしまっている私がいる。
「喜んでくれているみたいだな」
 ガロット、と続けて名前を呼ばれ振り返ると、隣で眠っていると思っていた主様が微笑んでいた。
 柔らかくて暖かい、私の好きな主様の笑顔だ。
「……はい、それはもう」
「ふふっ。それなら良かった……ガロット、おいで」
 腕を広げこちらに向けて伸ばされてきた指に自分の指を絡めて掬い上げる。もう片方はそのまま私の首に絡んだ。力を入れられるままに引き寄せられて起こしていた身体を再度寝かると、私も背中に手を回しぴたりと互いに寄り添い合う。近くなったその首元には私が残した赤い跡がいくつも散らばっていた。
 二人しか知らない、二人だけの秘密の印。

 掬い上げた指に私の指を絡めると、硬い感触。紅い、私の角の欠片を飾った指環がしっかりと着けられているのが分かる。
 それがつい嬉しくて何度も指先でそれを撫でていると、流石にやりすぎたのか「くすぐったいよ」と胸元で微かに笑う声が聞こえた。


 時折ふと頭を過る。
 主様を堕落させてはいまいかと。

 少しずつ、少しずつ御自身の立場を崩し、それを愛と言う形で私に分け与えて下さる主様。
 今はまだ何も起きてはいないからと、私は甘えすぎてはいないだろうか。
 聖夜にも、お家よりも仕事よりも私の我儘な願いを優先し叶えて下さった。もし下手に誰かに見つかりでもすれば、言い訳など通じる筈がないというのに。
「……愛しています、ベルホルト」
「うん?私もだよ。ふふっ、突然どうしたんだ」
「いいえ、何も」
 主様の、ベルホルトの柔らかな前髪を掻き上げ、額にそっと口付けを落とす。

 ああ、それでも私は。
 この愛しい方のお側から、自ら離れる事などもう出来ないだろうと。


 そう自嘲しながらそっと瞼を閉じた。
 指元ではアメジストが月の光を受け、美しく輝いている。






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指環にデレデレしつつ不安になってるガロットですた。


るるさん宅(@lelexmif)ベルホルト様お借りしました!



2016/3/14
 


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