夜の海で
ざぶん、と音を立て、暗い海中に身を沈める。
手首に着けていた魔道具のブレスレットが海水に反応し、淡い青色の明かりが辺りを優しく照らした。
ルオは海底へと向かっていた身体を反転させ、水中から海上を見上げる。己の口から溢れる気泡と、水面で揺れる青白い月明かりが見えた。
ごぽり、と自身が息を吐く音だけが耳に届く。
そのまま静かな空間でそっと瞳を閉じた。
波に揺れ、水に包まれ、心地が良い。
2、3分ほどそうしていただろうか。訓練を受けていた為一般の人よりは息を止めていられるものの、流石に息が苦しくなり呼吸をするためにルオは海面に向かった。
海上では浮き輪で浮いている人影が見える。
「……はぁっ!」
「あ、ルオさん。お帰りなさい。ブレスレットの具合はどうでしたか?」
ルオが勢いよく海中から顔を出すと、その側でのんびりと浮き輪で浮かんでいたリヤンが首を傾げながら問い掛けた。顔の水を手で拭うとルオはリヤンの使っている浮き輪に寄り掛かり、ブレスレットを着けている右腕を緩く上げながら乱れる息を整える事も忘れ瞳を輝かせた。
「凄いであります!ちゃんと明るいのに光が強すぎる訳でもなくて優しくて……これでいつでも夜泳を楽しめるであります。本当に感謝するでありますリヤンさん!」
「ふふふ、それなら良かったです」
ルオのまるで子供のようなはしゃぎっぷりが微笑ましかったのか、リヤンはふわりと柔らかな笑みを浮かべた。それから真夏の星空を見上げるとぐっと大きく伸びをする。
「んぅー……よしっ、僕も少し泳いできますね。ルオさんはどうします?」
「あ、自分は少し休憩をしているであります。それまではこの浮き輪の番を」
「ふふっ、わかりました。じゃあちょっと行ってきますね」
するりと浮き輪から体を抜くと、そのままリヤンはとぷんと海中へ身を沈めた。
ドルフィンキックを用いたその泳ぎは無駄がなく綺麗だとぼんやり思いながら、ルオは浮き輪に腕を回し、暗い海中に消えるリヤンを見送った。
穏やかな夜の海で波間に揺られぷかぷかと漂う。
沖に流され過ぎないように注意しながらルオは夜空を見上げた。街の灯りもなにもない海の上では、星はいつも以上に明るく輝いて見える。
そういえばもう少しで国主催のサマーパーティが開催されるらしい。街や宿で皆が話しているのを耳にした。この国での大きな行事の参加は今回が初めてのルオは、どんなものなのだろうかと今から楽しみにしていた。
そしてふとこの前ウリセスとピノがそのパーティ用に水着を買いに行っていた事を思いだす。なんやかんやと水着だけでなくクッションなど沢山背負わされて宿に帰ってきたウリセスの姿を見て苦笑したものだが、その隣で「この水着ならソルにも大ヒット間違いなしにゃーん!」と楽しそうに笑っているピノのその顔は大いにルオの心を揺らした。
好きなんだなぁと、ちりっと燻る心がそこには確かにあった。
物事がなんであれ、真っ直ぐ、一途に追い求める姿は性別など関係なく好きだ。
それが大っぴらであれ、隠したものであれ。
「……はぁ」
ぱしゃりと後頭部を海水に浸しながらルオは息を吐く。
海の上で吹く夜風は冷たくて、気持ちがいい。そして頭を文字通り冷やすのにも丁度いい。
「……ピノさんは、ソルさんの事を思ってる時が一番素敵だよなぁ」
微かに微笑みを浮かべそう誰に言うでもなくぽそりと呟くと、そのまま浮き輪から手を離しこぽりと水中に沈んでいく。
水の中に入る瞬間、流れ星が見えたような気がした。
(ピノさんが、幸せになってくれたらいいなぁ)
一途にソルの事を思っている彼女が素敵だと、可愛らしいと思った。
だからその恋の応援を心からしたい。淡く淡く灯ったこの想いは水に溶かして流して。
手元のブレスレットが、波に揺れ、水に反応して淡く輝く。
海上でぱしゃりと、魚の跳ねるような音が聞こえた気がした。
サマーパーティまであと、もう少し。
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サマーパーティ前のあわーいルオのはなし!
この後きっと戻ってきたリヤン君が浮き輪しかないのに慌てちゃうやつ←
リヤンさん(@misokikaku)
お名前だけ
ピノさん、ウリセスさん(@lelexmif)
ソルさん(@kingfisherLA)
お借りしました!
お題「ぷかぷか」「星に願いを」
2015/07/22
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