一歩前へ!
まだお日様も顔を出していないような朝方。
こっそり買ってたトランクに、服や頑張って貯めたお金、地図とスケッチブック、画材。それから小さな頃から大切にしてる絵本を押し込んでウチはそっと店長さん達を起こさないように喫茶店『リーフ』から飛び出した。
暫く走って、街の門の所までいってようやく足を止めて大きく深呼吸。
もう夏も終わっちゃう、ひんやりとした空気が胸の中いっぱいに広がった。
この前一人で旅をしてみたいって店長さんに言ってみたら大喧嘩になった。
まだまだ子供なんだから危ない、アンタ一人で一人旅なんて出来る訳ないでしょ。なんていわれちゃって。
でもでも、一人で旅をして色んな所を見てみたいのはずっと、ずぅーっとウチの夢で。
キューレさんが別の国に行っちゃうって聞いて。
それから図書館で色んな国の風景が載ってる本を沢山読んで。
ヨルクさんに楽しい旅のお話を聞かせて貰って、少しだけ外国の事を体験させて貰って。
ますます我慢が出来なくなった。
そう、だから少しだけ。秘密の旅。
誰にも言わないでこっそり。
帰ってきたら店長さんにたくさん怒られるかな、なんて考えたけど。
それよりもウチはとっても冒険がしたくて、色んな街や国の風景や、色んな人の表情が見てみたくて。それをスケッチブックいっぱいにぜーんぶ詰め込みたくて。
だからきっと、これが初めての店長さんへの反抗なのです。
トランクを足下に置いて隣の町に向かう馬車がこないか街の外に視線を投げてみる。
流石に少し早すぎたかな、馬車がくる気配はまだまだ感じられない。
「おいリゾ」
「ぴゃっ!?はへっ!?ヴォ、ヴォルフさん!?」
急に背後から話しかけられて驚いて振り向くと、そこには何故かヴォルフさんが立っていた。だってだって、本当に誰にも言ってないのに。
「……やれやれ、ホントに店を飛びでちまうとはな」
「……へ?」
「お前んとこの保護者、昨日から気が付いてたぞ」
ぽかんと首を傾げてるのも気にしないで、ヴォルフさんが手に持ってた紙袋をウチに手渡した。顎で紙袋の中を見るように促されて、そっと中を覗いた。紙袋の乾いたカサッという音に思わず耳がぴこぴこ動く。
「……これ、」
「お前の小遣いだけじゃ不安だってよ。その革袋の中には金。そんでその隣のパンは昨日の夜こっそり焼いてたぞ。それと、そのすもものジャムは、おれからな」
「うぅ、全部ばればれだったんですね……あれ?でも……」
「あぁ、ロナンシェからおれにお供しろって依頼は来なかったぜ。……おいリゾ、お前ホントにひとりで行くのか?」
じぃっと真剣な目で見詰めてくるヴォルフさんに、ウチは大きく頷いてみせた
「はいっ!いつまでもヴォルフさんや店長さん達に頼ってばかりのダメダメなウチじゃ、やっぱりなんです!
……といっても、今回の旅はすぐに帰って来るつもりなんですけどね、あはは……」
後半になるにつれ声の大きさを下げながらぼそぼそと苦笑しながら呟く。そんなウチの様子に呆れたのかヴォルフさんは盛大にひとつため息を溢しながら頭をぽりぽりと掻いた。
「あ〜……お前の事だしそんなトコだろうと思ったぜ……けどよリゾ。長旅じゃないにしろ、気をつけろよ?」
「……はい」
ちょっとしゃがんで、ぽふぽふと頭を撫でてくれるヴォルフさんに頷きながら返事をする。つい嬉しくって笑うと、顔面がふやけてんぞとちょっとだけほっぺをつねられた。
「……?」
そんなことをしていたら、遠くから馬車の音が聞こえるのを耳が拾った。ちらりとヴォルフさんをみると勿論聞こえてるらしくて、お互いに顔を見合わせる。ちょっぴり近い。
まだヴォルフさんが腰を曲げているのを見計らって、ウチは思い切って背伸びをして、ちゅっ、と隙をついて唇を奪い取る。
「なっ!!??」
「えっへへ!ヴォルフさんの唇、奪っちゃいました!」
とってもびっくりしたのか大きな耳をピンと立たせているヴォルフさんに、どうです!とにんまり笑ってみせた。それから足下に置いたままだったトランクに貰った紙袋をぎゅうっと大事に詰め込んで、それを持って近付いてくる馬車の方に走っていく。
そして、くるりと振り返ってヴォルフさんに大きく手を振ってみせた。
「帰ってきたらウチのお話、たくさんたくさん聞いて下さいね!」
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一葉さん宅、ヴォルフさん(@kazuhasousaku)
お名前のみ
るるさん宅、キューレさん(@lelexmif)
むくおさん宅、ヨルクさん(@mukumukumkuo)
お借りしました!
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