勇気を一粒


「…よしっ!」

朝、目が覚めて窓の外に広がる雲一つない青空を一番に確認し、リゾはきゅっと強く手を握った。
今日はお店の定休日で、今日はいつものヴォルフさんとの街の外でお散歩の日で。
大切な人に思いを伝える特別な日で。

「…ウチ、頑張ってくるね。」

そう枕もとのテディベアを撫でながら声を掛ける。
返事が返ってくるはずもないが、元気が貰えたような気がしてリゾは満足そうに微笑み出かける準備を始めた。

寝間着から着替えて部屋を出る。洗面所で冷たい水で顔を洗って、髪を櫛で整える。いつものお気に入りの赤いヘアピンも忘れずにちゃんと着けて。
きっと朝までお酒でも飲みに行っていたのだろう、普段ならとっくに起きてカウンター席でハーブティーなり飲んでいるロナンシェがまだ部屋から出て来ていない。
声を掛けてから行こうかとも思ったがもうヴォルフと出かけるのは毎週の事となっていたので、無理に起こすのも悪いと思いテーブルの上に出かけると書き置きしていくことにした。

そして喫茶店を飛び出し、色々と詰まったバスケットを持ってリゾはヴォルフのいる「何でも屋」まで向かう。


今日はどこに行こう。


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「さっみー!!この時期の海はやっぱ風が冷たいな。」
「えへへっ、でもでも海綺麗ですよー!」


冷たい潮風にきゅっと目を閉じながらリゾとヴォルフはけらけらと笑う、今日は今まで行ったことのなかった離れ小島が見える街外れの海岸まで足を伸ばしていた。
綺麗な貝殻を見つけてはポケットの中に入れ、柔らかい砂に足が少し沈む感覚を楽しみながら二人は海岸を沿って歩く。
遠くに見える船に大きく手を振ったり、空を飛ぶ群の鳥に小さな声を上げる。
やっぱり何を見ても楽しくて感動ばかりで。足場の安定した岩場に腰を下ろしスケッチをしながら、ふふふっとリゾが笑い声を零した。

と、同時に隣に座るヴォルフの腹の虫がくぅ、と鳴く。


「あ゛ー…腹、減ったな」
「あ、あの…お弁当にしますか?…その、ちょっといつもと違いますけど」

空腹で腹をさするヴォルフの前にリゾがおずおずとバスケットを差し出す。その様子に疑問符を浮かべながらヴォルフがバスケットの上に掛けてあった布を取ると、いつもより少し歪なサンドイッチとちょっと焦げたから揚げ等が入っていた。
それらは昨日の夜、こっそりとリゾが今日の為に作っていたものだった。

「…ん?」
「そ、そのぉ、今回はウチが頑張って作ってはみたんですけど…やっぱりいつもの店長さんが作るご飯みたいには綺麗に作れなくて…」

あ、味は大丈夫ですからっ!と慌てて付け足しながらわたわたと慌てる。
最近は以前より料理を練習するようになりレパートリーも増えてきた、味付けもロナンシェが直々に教えているので間違いはない…とはいえまだまだ見た目までには反映されておらず、リゾがしょぼくれる。
その様子を見ながらヴォルフがひょいとから揚げを摘まんで口に運んだ。

「おぉ、なんだ!うめーぞリゾ!」
「ほ、ほんとですか!?」
「うまいうまい!見た目なんて気にすることないぜ。」

けらけらと笑いながら次々食べ進めていくヴォルフの様子にリゾも満面の笑みを浮かべる。
ああ、やっぱり。やっぱり!

「ヴォルフさん。」
「ん?なんだ。」
「今日のお弁当はその、フェスですし、チョコとかじゃないですけど…いつもお世話になってるヴォルフさんへのお礼で…それとその…」


もごもごと声をどもらせてしまいそうになるが、リゾはぎゅっと目を強く閉じながらテディベアの姿を思い浮かべる。大丈夫、大丈夫。

そしてヴォルフの懐に抱き付いて勇気を振り絞った。



「ウチ…ヴォルフさんのことが、好きです!」


「……っ!?」


沈黙が続いた。
ざざん、と波の音だけが響いている。


暫くしてリゾは恐る恐る顔を上げた。
そこには普段は隠れているヴォルフの耳がぴん、と驚いたように立っていて、思わず苦笑してしまった。


「だいすき、です。」


いつの間にか太陽がゆっくりと、離れ小島の向こう側に沈み始めていた。
夕日と潮風が優しく二人を包み込んでいく。




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企画内企画、レターズフェスでのお話。


一葉さん宅、ヴォルフさん(@kazuhasousaku)
お借りしました!


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