微睡


「……あぁ……くそっ…油断した…」


虫の特性を持つ自分の身体が冬の寒さに極端に弱い事くらい小さな頃から理解しているというのに。パーティに浮かれていつもより軽装で外に出たからだ。

完全に体調を壊した。


パーティが終わった翌日の朝、ぜぇぜぇと息を荒げ重たい頭を抱えながらロナンシェはそう思った。とりあえず顔を洗って目を冷まそうとベッドから起き上がる、衣服を何も纏わない肌から何枚も重ねられた毛布がするりとそのまま落ちて行った。この素肌に触れる毛布の心地良さがたまらなく好きでいつもロナンシェは寝る時は服を着ていない。寒い冬はその分布団の枚数を増やしている。

「………あ…ら…?」

起こそうと思った身体はしかし、言うことを聞かずまたふらりとベッドへ横たわり沈んで行く。想像以上に身体に力が入らないのにロナンシェ自身が驚き数度瞬きを繰り返した。自分が思っているよりもかなり身体はダメージを受けていたらしい。

「……今日はさすがに店はお休みね…」

ふぅ、と目を手で覆いながら深く溜め息を吐いた。まだ現時点で高熱が出ていないだけマシなのかもしれない、きっと後々じわじわと出だすことだろう。我ながら情けない。


それから暫くして様子を伺いにきたリゾに伝えて店を臨時休業にした。パーティ後は繁盛する美味しい時期なのだが、だからといって今無理にそのまま店を開け接客出来る体力など流石になかった。


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それから太陽も沈み外も薄暗くなった頃、何をするでもなくただぼんやりと天井の木目を眺めていたら外から控え目なノックの音がした。サイドテーブルのランプがちらりと揺れる。朝方心配していた熱はそこまで酷くはならなかったが身体はまだ怠い。

「……はぁい…?」

返事の声を上げるが朝以上に喉が枯れていた、これは下手したら明日も続けて休みにしかねないと眉間に皺を寄せる。カチャリと音がして扉が開けばそこにはリゾと、思わぬ客人の姿。

「やぁローナ、これはまた」
「……ちょ、き、キューレちゃん!?」

ひらりと軽やかに手を降りながら現れた、見慣れた友人の姿に驚いて反射的に起き上がる。また結局はふらりとベッドに戻るのだが。

「ご飯のお誘いに来たそうなんですけど、店長さんの事をお伝えしたら…それと、えへへ…」

と後半ごにょごにょと嬉しそうにリゾが呟いていたが、暫くしたら友人同士の邪魔をしないようにと思ったのかキューレにベッド近くの椅子に座るように促した後「じゃあ、あまり無理しないで下さいね」と言いにこりと微笑みそっと部屋から出ていった。キューレは言われた通りに椅子に腰掛けると、ぎしりと小さく木の軋む音がした。ロナンシェが視線をついと上の方に向ければキューレと目が合った。友人に見下ろされる感覚に少々むず痒さを覚え苦笑する。

「…キューレちゃんにこんな風に見下ろされるって違和感ねぇ」
「おや、小生の看病はお嫌?林檎でも剥こうかい?」
「ま、タバスコかけるんじゃないでしょうね?」

くすくすと他愛もない話をする。リゾとはまた違う、気を張ることもなく遠慮せず物が言える相手というのは本当に貴重で大切だなと改めてロナンシェは実感した。こうして話しているだけでも大分体調が良くなったような気さえしてくる。

「…フフッ、思ったより元気そうで何より」
「そうね…でも今日はわざわざ来てくれたのにごめんなさいね?今度暇見付けたら何処か食べに行きましょ…」

申し訳なさそうに眉尻を下げながら微笑めばキューレは「気にすることはない」と軽くロナンシェの肩を叩いて笑った。今度どこかで埋め合わせせねば…とロナンシェが回らぬ頭で考えれば、ふと知り合いの子達の店が頭を過った。

「…あ、そういえば知り合いの子達のお店のクッキーが美味しいのよ。テディベアとか雑貨も売ってて…」
「…テディベア?」
「そうそう、エミリアちゃんとエレナちゃんって女の子二人がやってるのよ」
「……偶然かね?実は今日…」


そうして友人同士の話は続いたが、暫くしたら流石にキューレがロナンシェの体調に気遣い「…じゃあそろそろ。しっかり元気になった頃また顔を出すさ、お大事に」と微笑んで部屋を後にした。ぱたん、と扉が閉まるまで見送った後そのままロナンシェの瞼が下ろされた。気分は良いが身体はやはり酷く疲れているのだろう、ふわふわと意識が薄れていく。そしてキューレが店を出て、リゾがそれを見送っている頃にはロナンシェは意識を完全に手離し深い眠りに着いていた。




嗚呼
明日もこんな、暖かな一日でありますように。






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るるさん宅、キューレさん(@lelexmif)
赤星エリさん宅、エレナさんエミリアさん(@eri_k666)
お借りしました。

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