夏油のことは大好き。本当に。信じられないほど。何度も言いたいし、何度も言わせてほしいし、でも何度言っても言い足りない。

夏油のことを考えるだけで天にも登れるし、夏油の姿を見ただけで一日中幸せ。
大きな手だとか、格闘技が趣味な割に指が綺麗だとか、爪をいつも短めに切っているところとか。
思っているより身体がしっかりしてて制服を着ると着痩せするところとか。
隣を歩いていると歩幅を合わせてくれるところとか。
話しかけるといつも屈んで顔を近づけてくれるところとか。
ふとした瞬間の優しい表情とか。

その声が、その仕草が、その眼差しが、その優しさが。
例えを出すとキリがない。素敵なところが多すぎる。

全てが大好きで尊くて、そばにいなくても鮮明に思い浮かべることができるほど。

それがあまりにも幸福で、苦しくて、尊くて、思わず涙が出てしまう。

でも、でもね。
1番伝えたいのは、やっぱり夏油と出会えてよかったっていうことで、死なないでくれてありがとうっていう感謝なの。

ありがとう夏油。
これからもずっと大好きだよ。何があっても。どんなことがあっても。夏油が私の1番だから。


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ケーキを一緒に食べたあの日。
実を言うと、気持ちが抑えきれなくて、思わず夏油に大好きなんて言ってしまったことを後悔している。
疲れ果てて正常な思考ができなかった。自制が効かなかった。深く反省している。
過労死するほどの任務量と、驚くような移動距離。それはいい。私が少しでも多くの任務をこなすことで、みんなの負担が減るのであれば、それは全然いいのだ。むしろ喜んで引き受ける。補助監督の仕事もできるようになったし、後遺症も完治しつつあって、呪術師としての仕事も以前と同じものができるようになってきた。
ただ、タイミングが悪くて、私の心のビタミンである夏油の姿を長い期間中一瞬たりとも見かけることができず、疲れ果てて電話もかけれない出れないといった万死に値する行動が私自身の首を絞めていたと思う。仕事の効率化を図るためには適度な休みが必要だ。今回でそれを痛感させられた。本当に。

だから、久しぶりに会えた本物の夏油に、思わず飛びついてしまったり、告白なんかしてしまった。
今は心から冷静さを取り戻している。むしろ冷水を浴びせられたかの如く目が覚めてしまっている。

あの時夏油は知ってるなんて優しい言葉を返してくれたがなんの脈絡もなく、突然同級生に好意を伝えられて、ぎょっとしただろう。
いや、私はもうただの同級生ではなく、夏油の大切な仲間というカテゴリーに大変ありがたいことに分類されるようになったけど。
でも、それでもだ。

私は夏油の恋人でもなければ将来を誓ったような間柄でも、五条のような唯一無二でもない。

ただの仲間。ただの仲間なのだから、その線引きをきちんとしなくてはいけない。
それと同時に夏油の仲間だと胸を張っていえるような人間にならなくてはいけない。だって、素敵な人の隣には素敵な人が立っていてほしいから。
かっこよくて優しくて強い夏油の隣には相応しい人が並ばなくてはいけない。

夏油は人の気持ちがよくわかる素敵で人間国宝といってもいいぐらいの素晴らしい人なので、私のような、夏油を素敵だと思っている人間からの好意を受け取るのは常日頃からあるだろう。
でも、もっと自分の理性を確かに持たなければ。一方的な気持ちの押し付けはダメだと学んだのに。それを活かさなくては。学んだことを忘れちゃいけない。


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いつもの時間に朝起きて、いつもの時間に部屋を出る。
そしたら、夏油が、部屋の前で待っていてくれる。これが最近のルーチンになっていた。

最近は以前の抱きつきそして告白するというとち狂った行動から学び、適度に休息を取るようにし始めたし、夏油にも体調やんわりと心配をされてしまったので、私は、夏油の仲間である私の身体を労っている。
そして効率化と精神面の安定をはかっている。

でも、体を労るという意味では夏油だってそうだ。
そろそろ寒さも本格的になりそうだし、体を冷やすようなことはしてほしくなくて、部屋の前で待つのをやめて欲しいとお願いしてみたのだが、頑なに譲ってくれなかった。
笑顔で拒否されてしまった。素敵な笑顔だった。思わずときめいてしまった。夏油は素敵なのでその笑顔ひとつで私は嬉しくって堪らない。
いや、違う違う。夏油の微笑みの威力でついつい流されそうになってしまった。

やっぱり、教室に行く前に私の部屋に寄るだなんて、おかしな話だ。
遠回りになるし、私を待つ時間のために早起きしなくてはいけなくなる。どうせ教室で顔を合わせるのだから、と言っても、違うんだ、の一点張り。
まあ、夏油の顔を朝一番に見れるのは私だって嬉しい。でもそれを言うのは憚られる。
言ってしまったら、夏油の行動を、私が規制してしまうことになる。
私が嬉しいことを、わざわざ夏油が私のためにしてくれることになるし、夏油が朝に私の部屋に寄るのがめんどくさくなって嫌になった時、通うのを辞めづらくなる。

「私の一日は伊吹に会ってから始まるんだ」

一体なぜ私の部屋に寄るのかと聞いた時に返された言葉がこれだ。
不思議な一日の始まりだなと思った。そしておかしなことだ。
朝日を浴びることで体内時計をリセットするためのメラトニンや、感情をコントロールするためのセロトニンが分泌されるのは知っているけど、私は朝日ではない。太陽ではないのだ。

よって、私を見ても体内環境にメリットは起こらないと思う。
私は、夏油の姿を見て幸せでたまらないけど、夏油がそうとは限らない。
私が今日もちゃんと生きてるな、自分の身体を蔑ろにしていないか、とかそういう確認なんだろうか。きっとそうかもしれない。
夏油は私の想像以上に心配性なところがある。
それは、以前の甲斐甲斐しい介護と、私に対する怪我の手当ての仕方からわかったことだった。


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白い息を吐きながら夏油と並び歩く。
よくわからないけど、ケーキを一緒に食べた一件から夏油と一緒に過ごす時間がぐんと増えた。

私が任務の量をセーブしているというのは原因の一つに考えられると思うけど、それだけでは、こんなに一緒に過ごす時間は増えないと思う。

朝以外でも校内にいる時は、なんとなく夏油がそばにいる。
嬉しい。たまらなく幸せ。
夏油がそばにいることに慣れはしたけど、私のときめきは常に止まらない。
それにそばにいる時間が多ければ多いほど、夏油の素敵でかっこよくて優しくて、たまらないところばかりが目に入る。今まで知らなかった夏油の些細な癖や仕草が日に日にアップデートされてしまうのだ。それはそれで天にも登れるぐらいに嬉しい。記憶にしっかり焼き付けておく。
もしかして、夏油の過保護と心配性が加速してしまったのかな。だから、いつも近くにいてくれるんだろうか。
誰しもが知っての通り、夏油は優しいので、私の体調や任務のペースを気にかけていて、あまりにも受けた任務が多すぎたり、少しでも体調が良くない日なんかは、夏油が勝手に五条や灰原、七海なんかに任務を割り振っている。
いつのまに私のスケジュールを把握していたんだろう、と疑問に思うよりも夏油のマネジメントがうますぎてまたしても夏油の素敵なところを見つけてしまった嬉しさが勝つ。

でもやっぱり、灰原と七海には申し訳がなさすぎて、後日謝りに行ったら、いつもこんなに沢山の任務を一人でこなしてたんですか。感心しますけど、やり過ぎだと思います、と灰原。
馬鹿なんですか、と七海。
あまりにも後輩らしからぬ物言いで思わず笑ってしまった。
再度謝罪を述べると、灰原には笑顔を、七海からはため息を返された。

夏油と一緒の時間が急激に増えた私は、いつもどきどきして夏油の隣を歩いている。
最初は夏油の足が長くて、私は追いつくために少し急ぎ気味に足を動かしていたのに、今ではすっかり私のペースに合わせてくれている。
気がついたら、私のペースで歩いているのだ。
それに気づいて夏油の顔を見れば、楽しそうに灰原と話した会話を共有してくれていて、あまりにもスマートな行動に私は前を向き直す。
最高すぎる。意識的にしているのか無意識のうちに隣に歩く人間と歩幅を合わせているのかはわからないけど、そういう気遣いができて相手に合わせられる人格を持ち合わせていることがやっぱりよくわかる。
日々夏油が生きていることに対する感謝が募ってしまう。そういう優しいところが大好き。

「もしかして夏油? めちゃ身長伸びたじゃん」

夏油、という反応せざるを得ない固有名詞が聞こえて、思わずそちらを振り向く。
知らない男が立っていた。
誰だろうか。夏油のなんだろうか。
出立ちから同年代と推測する。
高専以前の友達か、知り合い、もしくは大穴で呪詛師か。
警戒は怠らないに越したことはない。どんな人間が呪詛師かわからないし、友人を語る迷惑な人間だっているのだ。夏油をあらゆるものから守るためには、些細なことに気がつくことが大切だ。

「久しぶり。もしかして隣の子は新しい彼女?」

俺のこと、覚えてる? 同じ中学だったんだけど。その言葉は私の鼓膜を通り抜けて消えていった。
新しい彼女。
この言葉に思わずフリーズしてしまったから。
そうだよね。確かに、こんなに素敵でかっこよくて優しくて素晴らしい夏油に彼女がいないわけがない。
しかも、ハグや好意的な言葉をかけてくれて、自己肯定感を高めてくれる点は、彼氏としては申し分がないどころがパーフェクト。
そんなパーフェクトに最高な夏油に彼女がいないわけがない。夏油は最高なので、ほんとうに。
でも、ちょっとフランクすぎる気もするので、今まで数多の女の子を骨抜きにしてきたのかもしれない。
だって、仲間にプロポーズまがいのことを言ってみせるスマートな夏油だから。
きっと私でなければ勘違いしていただろうに。かくいう私も少しその雰囲気に呑まれてしまったこともある。
罪だなと思うが、それが夏油の魅力なので、私は心の中で拍手喝采を送っておく。魅力的すぎて最高だよ、と。そういうところが大好きだよ、とも。

好奇心が勝って夏油の顔を見ると、眉間に皺を寄せていた。怒っている。微妙な変化だけど、四六時中一緒にいた私にはわかった。それに夏油は私の推しなので、推しの機微には鋭いという自負がある。

目の前の彼は夏油の怒りには残念なことに気がついていないみたいだったけど、夏油は今確実に腹を立てている。

なんでだろう…あ、いや、そうか。
私が夏油の彼女と思われたことが嫌だったのかも。仲間と家族と友達と恋人は違う。
ただの仲間を、素敵な夏油の彼女と勘違いされたことに腹を立てているのかもしれない。
でもここで夏油が、私のことを彼女じゃないと一蹴してしまうことはないだろう。夏油は優しいので。私の面子を立たせようとしてくれるだろう。
男から、彼女じゃないですというより女から彼女じゃありませんという方が角が立たないから。たぶん。
でも私が夏油の彼女じゃありませんというのは、夏油のことを彼氏にするほどではないと言っているふうに聞こえないだろうか。
そんなのは無理だ。夏油は彼氏にしたいランキングぶっちぎりで1位だし、むしろ結婚したいランキングで大気圏突破する勢いで1位でしょ。
だから、彼女じゃない、その一言はちょっと私には言えない。だって夏油は推しなので。
夏油の格を下げたくはない。私と夏油は同列ではない。

「私では夏油に到底釣り合わないので、彼女にはなれない」

なかなかうまく表現できた。
これなら夏油の素晴らしさを伝えられて、なおかつ格も下がらない。夏油が魅力的だということも伝えられた。

「は!?」

夏油から素っ頓狂な聞こえた。

「じゃあ、今彼氏いる?」

「馴れ馴れしいな」

私も夏油に倣って眉間に皺を寄せてしまう。
夏油を不快にさせたのみならず、心底どうでもいいことを聞いてきやがった。なんなんだこいつ。時間の無駄だ。
それに私は夏油以外の人間は眼中にないのだから、彼氏がいるわけがない。
彼氏なんぞそんな必要のないものにうつつを抜かす暇があったらその時間で夏油のことを考えるし、夏油がいかに幸せに生きれるかを考える。それは私の最優先事項だ。わかってるのか。

「か、かわいくねー!」

何を言ってるんだこいつ。呪術師の私に必要なのはかわいさではなく、呪霊が祓える能力が有るか無いかだ。
わざわざ、夏油の足止めをして、夏油を苛立たせ、挙句には見ず知らずである私に馴れ馴れしくしてきやがって。最初は夏油の友達かな、なんて思ったが、違うな。夏油の友達にこんな品の無いやつはいない。
短慮、下品、空気が読めない最悪のスリーコンボ。最低だな。むしろ綺麗に決まってすごいとも言えるかも。
品がないといえば五条も結構ガサツだが、五条は規格外枠だから。いいのだ。それに五条は親友だ。だからいいのだ。


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