火照ると愛






「うん。多分そうだよね。出会い方からすでに間違ったよ。

あのさ、普段なら絶対酔わないんだよ、僕。でもさ、その日はギャンブラーZのゲームの発売日だったからネ?ちょーっとはしゃぎすぎたんだよね。
でさ、仕事の後その辺の人みんな誘って遊びに行ったんだ。
安い居酒屋だったけど雰囲気に飲まれてどんどんお酒も回っちゃってさ。判別もあんまりつかなくなった頃、そこで誰かが女の子達を呼んだんだよね。五人くらいだったかな?まぁいいや。
そこからなんか盛り上がって、普段行かないカラオケとか行っちゃった。うん。開放的になりすぎたんだよね。

で、気づいたらあの娘とホテルにいたんだよ。

…いや、うん。そう。だって夏だし。ギャンブラーZとカレーが好きなクールなベーシストだって、女の子が好きなんだもん。
だからさ…そんな睨まないでよ。

え?うん。そうだよ。
…いや、確実かは、わかんない。半裸だったけど。べろんべろんに酔ってたし。それにあの娘が起きる前に帰ったし。

痛い!ちょ、ユーリ、頭叩かないでよ!…そんなこと言ったって、その時は解るわけないじゃん!
その女の子がアッシュくんの知り合いだったなんてさ!」




火照ると愛



僕は二日酔いで最悪な気分で起きた。見慣れない天井と壁が僕の視界を奪った。
狭くて安っぽい内装だなぁなんて思いながら、もう一度目を瞑り、寝返りをうった。
その瞬間、右手に柔らかい感触。
ふわふわであたたかくって…最近はあまり触る機会のなかった、これは、もしかして、男なら誰でも大好きな…

「…ぅうん…」

不意に発せられた甘い声に、僕は飛び起きた。

目の前にはブランケットにくるまって寝息を立てている女の子。
僕の右手は女の子の胸を掴んでいた。
あわてて手を離して、ベッドから転げ落ちるようにして逃げた。僕の格好といえば、下着のみ。女の子はブランケットでよくわからないけど、キャミソールは着ていた。
昨日の事は全く覚えてない。どうしてここにいるのかも、女の子の名前さえ。
女の子には申し訳ないけど、厄介事はごめんだからホテルからそそくさと逃げたんだ。
今思えば、挨拶くらいしておけばよかったんだよね。そうしてたら、少しはマシだったかもしれない。


それから次の日。僕は昨日の事は忘れてしまおうと思ってた。だって覚えててもいいことないし。
それで、気分転換に街にある大きな図書館に出向いた。そこはとっても品揃えがいいんだ。ギャンブラーZの本はもちろん、科学書だってなんでも揃う。

そこで偶々、アッシュくんを見つけた。からかってやろうと声をかけた瞬間、アッシュくんの大きな背中で隠れていた人物と目があった。

その瞬間、思わず持っていたギャンブラーZの本を落としてしまった。
あわてて拾い上げ、その時にもう一度女の子を見た。切り揃えられた金髪に碧の瞳。間違いない。

ホテルに行ったあの子だ。


「何してんスかスマイル。あ、紹介するッス。こちら、ベルさん。俺のよく行く本屋の店員さんなんス。」


事情を知らないアッシュくんは呑気に女の子の紹介を始めた。二人が顔見知りなんて知らなかった。

「よろしく。スマイル、さん。」

「、よ…よろしくね。…ベルちゃん。」


その時の僕の心の中は大変な事になっていた。冷や汗が額に滲む。

ベルというその女の子は何事も無かったかのように握手を求めてきた。僕は苦笑いでそれに応じた。ぎこちなく握った手はすぐに離した。


それから暫く経って。不幸なことに、ベルちゃんはアッシュと気があったらしい。
アッシュが、ベルちゃんをユーリに紹介した。ユーリも彼女の事は気に入ったみたいで、ユーリ城に招く事も多くなったから、度々僕らは顔を合わせる事があった。

そのたびに気まずい思いをする羽目になった。
そして、今現在も気まずい思いをしている。
僕の隣にはベルちゃん。
向かいに座ったアッシュと談笑してる。僕は雑誌を読むふりをして、なんとかやり過ごしていた。ユーリは少し離れたソファーから、僕らをみてため息をついた。ユーリには事情を話したんだ。誰かに言いたかったから。でも言った瞬間、拳骨を貰ったんだけど。

アッシュってやっぱり、僕がベルちゃんと、なんて言ったら怒るだろうなぁ…。
ベルちゃんはどう思ってるんだろう。横目でベルちゃんを観察する。うん、僕も色々と女の子を見てきたけど、結構、いやかなり可愛い。正直ラッキーという考えが過るくらいには好みだ。
ベルちゃんがすこし屈んだ瞬間、ワンピースから谷間が覗いた。あ、アッシュ君の目が泳いでる。ああ、実は唯一覚えてる事があるんだよね。ベルちゃんの、おっぱいの感触。

「…僕ちょっとトイレ。」

言い訳をしとくと、席を立ったのはやらしい想像をしたからじゃない。決して。罪悪感に耐えかねて、のことだ。

なんて心のなかで誰に言うでもない言い訳を考えながら、トイレのドアを開いた。

手洗い場の鏡にはなんとも情けない顔のボクが映ってた。

「…ああ、しんどい。」

気持ちを静めるために深呼吸をした。
してから、あ、ここってトイレだった、と後悔したんだけど…。


はぁ、とため息をつきながら、トイレのドアを開けた。これからまたあの空間に行くのかぁ。






「…105号室。」




可愛い声が左から聞こえた。
ぽつりと呟かれた言葉に振り向くと…そこには悩みの種のベルちゃんがいた。
壁に寄りかかり、上目遣いで僕を見ていた。


「気になってた?覚えてないかと思ったけど。」

「ベ、ベルちゃん…キミ、やっぱり覚えて…」

「うん。だって…あの夜、貴方すごかったから。」

クスクス笑いながら言われたその言葉に、唯一覚えているベルちゃんのおっぱいの感触が甦る。ざあっと血の気が引くのがわかった。
両手を顔の前で合わせて頭を下げた。

「…ごめん!僕、実はあんまり覚えてなくて!何かしたなら責任取るから!」

「え?あ、気にする事ないわ。酔って自制が効かなくなるなんて誰でもある事だもの。」

顔に似合わず達観した恋愛観をお持ちだ、なんて失礼な考えが頭に過る。

「いや、でも、もし万が一、ほら、キミの負担になったら…」

「ううん。吐いたりはしなかったから大丈夫よ。運ぶときはちょっと重かったけどね!」

「…え?運ぶ…?…あれ?」

ん?なんだか会話が噛み合ってない気がする。

「…え?飲み過ぎて倒れたの、覚えてない?それで、とりあえずホテルで寝せようってなったんだけど…。」


まさか。まさか。

「…やっ……てない?」
「え?当然でしょ」

けろりと答えるベルちゃんの目の前で、体面も気にせずがくりと項垂れた。

なんだ、僕の思い過ごしだったんだ…

「あ…でも、僕服着てなかったけど…」

「自分で脱いでたんじゃない。寝る時は裸だーって騒いで。それから私に抱きついて、そのままベッドにダイブしてすやすや寝ちゃったのよ?」

「ああ…なるほどね。」

ベルちゃんによると、僕以外は皆女の子をお持ち帰りして、マヌケな僕は情けなくベルちゃんに介抱されてただけ、って。 …本当にひどいよ皆。もうあの人達とは飲まない。


僕は脱力感に襲われ、その場にへたりこんだ。
ホッとする反面、なんだか残念だと思う自分がいる。

「私、貴方がこの事に触れてほしくないみたいだから、酔っ払ったのが恥ずかしいんだろうと思ってあえて話題にしなかったんだけど…。でも勘違いしてたならもっと早く教えてあげれば良かったわね。」

「いや…あの…介抱してくれたのに、ごめんね。…その、先に帰っちゃって。」

ベルちゃんを見上げて謝ると、にこりと笑い返された。

「ううん。いいの。よくなったのなら。」

なんていい子だ。普通ホテルに置き去りにされたら怒り狂うだろうに。とか思ってたら、急にベルちゃんがクスクス笑い出した。

「え?なに?」


「ごめんなさい。あの時の事、思い出しちゃって。…ねぇ、ほんと言うとね?私に抱きついてきた時、正直私、襲われるかと思ったわ。でもあなた、ベッドに倒れこんで、私を抱きしめたまま、何て言ったと思う?

…ギャンブラーZサイコー!、って寝ぼけながら言ったのよ!」


ベルちゃんはツボに入ったみたいで、クスクス笑っていた。…そんな情けない事になってたなんて。
僕、今すっごく昔の自分を殴りたい。


「ふふ…ねえ、私達、やり直さない?これで帳消しってことで。多分、いい友人になれると思うの。ね?」

ベルちゃんは微笑みながら、僕に手を差しのべた。

「え、いいの?こんなヤツと友達になりたいなんて、変わってるね。」

「変わってるのは貴方もでしょ?変わり者同士、いいじゃない。」

「それもそうだね…僕でよかったらゼヒ。」

断る理由なんてない。差しのべられた手をとって、立ち上がった。
今度は僕を見上げる形になったベルちゃんの目がキラキラ輝いた。

「良かった!嬉しい!」

「!」

僕の手を両手で握りしめて、花が咲いたみたいにすごく可愛い笑顔でベルちゃんは笑った。


あ、ヤバい。

落ちた。


僕は胸の奥に沸き上がる新しい思いに戸惑いながら、手を握り返す。ベルちゃんの手は温かくて柔らかかった。


「…じゃあ、改めて、僕はスマイル。よろしく、ね。」
「ふふ、ベルです。よろしくお願いいたします。」


出会う順番も、キミへの接し方も、色々と間違ってばかり。間違いだらけの劣等生だけどさ。

はじめからやり直そう。





「あ、あと謝りついでにもう一つ、おっぱい揉んでごめんね!」

「…なにそれ。私、それは知らなかったんだけど。」

「あ。」

end


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