置いてけぼりの4月










注意*暗い上スマイルが酷い








彼と寝てわかったことがある。

意外と丁寧で紳士的。
なにより、透明人間なのに体温が高い。
別に普通かもしれないんだけど、なんだか冷たいイメージがあったから意外だった。反対に末端冷え性の私の指先は氷のように冷えきっていて、彼に触れる度に冷たい、と文句を言われた。更に爪に塗ったアイスグレーのマニキュアが視角的にも冷たさを強調していた。

でもそんな私を抱き締めてキスをして包み込んだまま眠りにつく彼の胸のなか、私は幸せだった。


朝目が覚めて、彼からあの一言を言われるまでは。


「ベルちゃんさぁ、もっといろんな男と恋愛した方がいいよ。」

私を腕枕したまま、彼が言ったコトバは、ピロートークの甘さの欠片もなかった。

沸いた脳ミソに冷水をぶっかけられたみたいだった。

他の人、なんて。いるわけないじゃない。私は
あなたが好きで、愛しくて、それは貴方も同じだと思っていた。のに。

「だってベルちゃんはまだ若いんだし、僕よりももっといい男捕まえられるよ。だからさ、今からもっと色んな男と寝てピッタリの相手を探したらいいんじゃないかな。」

彼のコトバを聞きながら、天国から地獄とはこの事か、なんて他人事みたいに考えている自分がいた。

彼は悪びれてなくて、心からそれが私の為だと思っているようだった。
半身を起こした私を見て、にっこり笑ってみせる残酷さに気づいてないんだわ。
額に手を当てた時、指先がまた冷えていた事に気づいた。

いくら反論してもダメだ。この人は私に興味が無いんだと、イヤでも気付かされた。
この人なら一緒に歩いていけると思って初めて好きになった、身を捧げたのに。
そんなこと考えても結局私はフラレたし指先は冷たいままだ。

最後に一つだけ聞いておきたかった。

「ねえ、私の事、好き?」

スマイルは、数回瞬きしたあと、私を抱いた時と同じ笑顔で、言った。

「勿論好きだよ。」










風がスプリングコートの裾をはためかせる。
4月だというのに、まだ気温は低いままだ。朝日は雲に隠れて出てこようともしない。
私の指先も冷えきってしまった。血の気の失せた手に憎らしいくらいアイスグレーが映えていた。

「…はぁ、マグマみたいなココア飲みたいな。」

咽頭ガンになりそうなくらい熱いやつ。
なんてひとりごちても、暖かくなんてならない。私は肩をすくめ、ホテルから立ち去った。
春はまだ来ない。

end

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