世間一般では今の時期を正月などと呼ぶらしいが、そんなことは俺たちに関係ない。
そう言わんばかりの万事屋の昼下がり、慣れない薫りが鼻腔をくすぐる。
枕に埋めていた顔を上げ、薫りの元へ歩くと、そこには割烹着に三角巾を着けた、龍神苗字名前がいた。

「なにしてんだ」

そう問うと、名前は白い皿を差し出した。

「正月には節料理だろうが」

皿の上の汁の正体は、どうやらだし汁らしい。
唇を近付けると、名前が顔を覗き込んできた。

「どうだ」
「いいんじゃねえの」

そう答えると弓束は心底自慢げにそうかそうかと頷きながら、料理に戻る。

「弓束」

名前を呼ぶとくるりと振り返り、なにやら眉を寄せた。

「そのポチ袋が気になるのだろう。ダメだぞ。それは子供たちにやるのだからな」

つん、と唇を尖らせる名前。
ポチ袋?と手を割烹着のポケットに入れると、袋がみっつ。

みっつ?

「おいおい。うちに餓鬼は三人も」
「いるのだよ。三人」

そう言われて手のひらに乗るポチ袋。


「名前ちゃん?」
「随分大きな子供がいるものだな。無駄遣いはするなよ」

割烹着着て。
お母さんか。

「……名前ママ」
「貴様ぶった切る。どう見てもパパだろうが」

どうやらお母さんは不本意らしい。
そういう問題か。

「名前パパお腹減った」
「まあ待て。もうすぐ出来る」

名前の肩に顎を乗せると、ふわりと煮汁の薫りが鼻をかすったのだった。


fin,


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