魔王と花嫁

ある村には、時々特殊な能力を持つ者―化身使いが出現した。化身使いには強い魔力が備わり、その魔力は凄まじい破壊力を持った。松風天馬もその1人だった。天馬は、幼い少女だ。化身の力は戦に使われる、そのため女はなかなかその力を開花させないのだが、村を守りたいという強い思いが天馬の化身を引き出した。村人は、この天馬を守る為に、化身使いを中心に交替で天馬の護衛を勤めることに決めた。

この日は清々しい程の晴天だった。日替わりで天馬の護衛に就いた神童拓人は、庭の花の世話をしている天馬に声をかけた。

「天馬。変わったことはないか?」

天馬は、聞き慣れた声に振り向くと、それこそ花が咲くような笑顔を見せた。

「神童さん!はい!あっ、いや、綺麗な花が咲きました!見てください!」

「どれ…」

天馬の視線の先にあるものを、神童は身を屈めて覗き込んだ。天馬の足元に咲いていたのは、紫色の花だった。天馬はしゃがみ込むと、その花をそっ撫でた。

「これは…」

「綺麗な花ですよね。でも、この花、「魔王の花嫁」って呼ばれてて、災いを呼ぶと言われているんですよ。だけど私、こんなに綺麗な花が災いを呼ぶなんて信じられなくて。そんなの迷信だって証明したくて、この花を育ててたんです。」

天馬はいつになく真剣な表情で語った。人々に嫌われ、疎まれる花が、本当はそうじゃないんだと信じる天馬の気持ちは、神童にも伝わった。

「そうか。お前がそういうなら、きっとこの花もそういう花じゃないんだろうな。」

神童は天馬の横にしゃがみ込むんで、天馬がしたように花を撫でた。天馬は先ほどの真剣な表情を崩し、花を見つめながら微笑んだ。

「良かったね。神童さんも信じてくれるって。」

天馬が花に語りかけた刹那、突然当たりが暗くなり、先ほどまで快晴だった空には分厚い雲が懸かった。

「…どうしたんだろう急に。」

天馬は立ち上がると、不安そうに空を見上げた。濃い灰色の雲はまるで何かの前兆のようで、2人に胸騒ぎを与えた。

「天馬、嫌な予感がする。部屋に戻ろう。」

神童は立ち上がって天馬の腕を掴んだ。しかし天馬は、躊躇うように花を見つめた。この雲行きで嵐にでもなれば花は散ってしまう。

「…でも…」

「良いからいくぞ!」

神童は無理やりに天馬を引っ張ると、部屋へと向かった。

「ねぇ、きみ、松風天馬…だよね?」

不意に後ろから声がかかり、2人同時に振り向くと、全く気配など感じなかったのに後ろには少年が立っていた。

「そうだよ?」

天馬は少年に警戒心は抱かず、素直に返事をしたが、神童は逆で天馬の腕を引いた。

「天馬、天気が悪い。濡れる前に入ろう。」

「待ってよ。彼女が天馬なら、この子…僕に頂戴?」

少年は神童の、天馬の手を掴んでいる方の腕を掴むと、ギリギリと強く握った。人間とは思えない力とその痛みに、神童は思わずその手を離してしまった。

「ありがと。」

少年はすかさず天馬の腕を引き寄せて、自分の方へやりぎゅっと抱き締めた。

「天馬!」

「大丈夫だよ。君たちの大切なお姫様は、僕が責任持って娶るから。」

「何!?」

少年はクスクスと笑うと、天馬の顎を掴んで唇に接吻した。

「これで契りは交わされた。天馬…僕の名前はシュウ。今日から君の夫になる。」

「夫…!?」

天馬はその言葉に目を見開き、本能的に逃げようと抗った。だがシュウと名乗った少年の力には及ばなかった。シュウは逃げようとする天馬など気にせず、そっと花壇へ目線をやった。

「…あの花が、僕を呼んだんだ。」

天馬と神童はつられてシュウの目線の先を見る。それあの紫色の花だった。天馬はある考えが過ぎり、ゆっくりとシュウを見つめた。

「シュウ…君はもしかして…」

「僕は魔王の息子、いや、嫁が見つかって、正式な後継者になったから魔王かな。」

その言葉に、神童は弾けるようにシュウに殴りかかる。しかしシュウは神童の拳を片手で受け止めた。片腕では天馬を守るように抱き締めている。

「…その程度?化身使いが聞いて呆れるな。」

「黙れ!天馬を離せ!」

「手を退けるなら君の命くらいは助けてあげる。」

「天馬を離せと言っているだろ!」

瞬間、シュウの周りを黒い禍々しいオーラが包み込んで、神童を吹き飛ばした。

「うわぁああぁっ」

「神童さん!」

天馬は神童に駆け寄りたかったが、シュウがそれを許さない。

「シュウ…、わたし、なんでもするから、だからこの村の人たちを傷つけないで。」
天馬は泣きそうな顔でシュウの服を握り締めながら見つめた。その表情にシュウは溜め息をついた。
「…わかったよ。天馬がそう言うなら。」
天馬の表情が晴れるも束の間、シュウはそのまま言葉を紡いだ。

だけど、結婚したら、僕たちの島に住むことになる。もう死ぬまでこの村に戻れないけどいい?」

死ぬまで村に戻れないということは、神童たちにはもう会えない。この村を愛する気持ちが人一倍強い天馬は、一瞬戸惑った。しかし、少し考えてからこくりと頷いた。

「…それで村の人が守れるなら。」

「…天…馬っ………」

神童が天馬の名を呼ぶと、天馬は神童に微笑んだ。

「あの花が災いを呼ばないって、証明したいんです。」

天馬は紫色の花を見つめた。あの花はもしかしたらこの出来事を予知して咲いたのかもしれない。それでも天馬は、あの花には災いを呼ぶ力はないのだと信じた。「…行こう。天馬。」

シュウは天馬をお姫様の用に抱え上げると、空には真っ黒い裂け目が出来た。シュウが地面を蹴り、飛び上がると、2人はその裂け目に吸われるように姿を消した。
村に残された紫色の花は、風に揺れて踊った。


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5000打です。まさかのパロディです。連れ帰りの話っていうのがわからなかったので、連れ去りの話になりました。後味が悪いです。なんかもうひたすら申し訳ないです。書き直し承りますので。

中村恵梨香様リクエストありがとうございました。


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