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土曜日の昼頃にわたしの部屋に遊びに来た千冬くんと、いつものようにまったり過ごしていた。

「誕生日行きたいところとかある?」

千冬くんの誕生日まではあと2週間ほど。ノートパソコンをローテーブルに置いて都内近郊のデートスポットを検索しながら尋ねると、隣でテレビを観ていた千冬くんが画面を覗き込んだ。大きな猫目が上から下へと動いたあと、わたしの方を見て一言。

「なまえさんと一緒ならどこでもいいよ」
「えー…」

パソコンに表示されているデートスポットにはあまり興味がないらしい。どこでもいい、と言ってわたしの腰に腕を回す千冬くんが言いたいのは「なまえさんとヤれる場所ならどこでもいい」ってことだろう。それならいつものようにうちで過ごせばいいんだろうけど、せっかくの18歳の誕生日にそれでは特別感がなさすぎてなんだかなぁ、と思ってしまう。ていうかうちに来てすぐそういうことをするつもりなんだろうか…なんかこう、そこに至るまでのムードとか情緒とか、必要なんじゃないの?

知り合いに会うのを避けるために普段からお家デートが多いからどこに行っても楽しそうだけどなぁ、とパソコンの画面を上から下へ、下から上へとスクロールする。定番だと水族館、テーマパークあたり?レンタカーを借りてちょっと遠出して日帰り温泉もありだし、どこかで食事してからイルミネーション見に行ってもいいなあ。そんなことを考えながらパソコンの画面と睨めっこしていると千冬くんが「本当にどこも行かなくて良いんだけど」と言ってパソコンをパタンと閉じた。

「やだ、わたしがお出かけしたい」
「いいじゃん家で」
「せっかくの18歳の誕生日なのに?」
「せっかくの18歳の誕生日だから2人っきりで過ごしたいんだけど」
「でも…んンっ、」

反論しようとするわたしの口を塞いでそのまま深い口付けをされる。ぬるりと入り込んできた彼の舌に絡めとられて吸われて、呼吸ごと奪われるようなキス。力が抜けたわたしの身体を支えるようにして腰に回された腕が優しく背中を撫でた。まるで行為の前にするような濃厚な口付けに、あぁもう早く2週間経たないかな、なんて考えてしまう。

「ん…、はぁ…っ、も、分かったから…!」

誕生日はうちでお祝いしよ、と伝えれば千冬くんは満足そうに笑った。わたしちょっとちょろすぎないかな。

「てかさ、前日から泊まったらだめ?」
「それはだめ」
「…なんで?」

即答したわたしに拗ねたような顔をする千冬くんはやっぱり可愛い。実はこの顔結構好き。

「お母さんにもちゃんとお祝いしてもらわなきゃだめだよ」

高校生にこんなこと言うとうざがられるだろうなとは思うけど、今後の進路によっては来年の春には実家を出ている可能性もあるんだからこれは譲れなかった。大人になって実家を出てから分かる、毎年当たり前のように誕生日を祝ってくれる親のありがたみ。それに親にとってもきっと子どもの誕生日は特別だ。特に千冬くんは母子家庭だと前に言っていたから余計に。

「子ども扱いして言ってるわけじゃないからね」
「…分かった」
「うん、分かればよろしい」

溜息を吐いて分かった、と言う千冬くんはあまり納得していないような顔をしているけど、『お母さん』というワードにはなかなか弱いらしい。そういうところも好き。ふわふわの髪を撫で付けるようによしよしと撫でると、千冬くんはまだ拗ねた顔をしながらも少し気持ちよさそうに目を細めた。あーもう好き、可愛い。癒し効果抜群。

「…誕生日当日は泊まっても良いよ」
「それは言われなくても最初からそのつもり」

悪戯っぽく笑って言う千冬くんの顔も好き。もう全部好き。本当に好きだからやっぱり失敗したくない。わたしとの初めてを嫌な思い出にしてほしくない。できることなら最高の誕生日にしたい。ふぅ、と吐き出した息が少し震える。

「あのね、ひとつだけ聞いてもいい?」
「なに?」
「あの、本当にこんなこと聞くのはどうかとも思ったんだけど…」

今まで付き合った人たちに聞かれたことはあっても聞いたことはない。良い歳して顔を赤くして聞くようなことじゃないのも分かってる。

「千冬くんって、その、そういうこと…シたことあるの?」

本当にわたしは何を聞いているんだ…と恥ずかしくなって千冬くんから目を逸らして小さな声で聞けば、一瞬ぽかんとした顔をした千冬くんがすぐに言葉の意味を理解してじわじわと顔を赤くした。

「…ハジメテでは、ない」
「あ、やっぱりそうだよね…」

千冬くんの言葉に、やっぱり経験あるのか…と少しほっとした反面、やっぱりモヤモヤとしてしまう気持ちもあって。

「経験がないと嫌だった、とか?」

そんなに経験あるわけじゃないけど…と、少し不安そうな目でわたしの顔を伺う千冬くんに慌てて首を横に振った。

「違うの、その逆で」
「逆?」
「千冬くんがわたし以外とシたことあるの、嫌だなって思っちゃったの」
「いや…それはお互い様すぎない?」
「それはそうなんだけど…それでも嫌だったんだもん。千冬くんがわたし以外の女の子に触ったことがあると思うだけですっごい嫌」
「うん、それもお互い様だから」
「それも分かってるけど!」

小さい子をあやすように頭を撫でる千冬くんと拗ねるわたし。これではどちらが年上か分からない。

「千冬くんのハジメテはわたしが良かったって言ったら引く…?」
「引かないし、そう思ってくれんのは嬉しい」
「ほんとに?」
「つーか俺もなまえさんのハジメテの男になれるもんならなりてぇけど」
「…お互い様だね」

たしかにこればっかりは仕方ない。まぁそもそも未経験の男の子をリードできる気もしないけど…と言えば千冬くんはまた笑った。

「じゃあさ、お互いがしたことないことしようよ」
「えー、例えば?」
「例えば……あー…」

少し考える素振りを見せてから顔を赤くして黙ってしまった千冬くんに「どんなこと考えてんの…」と言えば、慌てて「そこまで変なことは考えてない!」と否定した。そこまで、ってことはまあまあえろいことを考えてたんだろうか。

「あんまりマニアックなことはいやだよ?」
「いや、それは俺も無理…」

更に顔を赤くした千冬くんのこういう反応を見るとやっぱり年下の男の子なんだなぁって思う。そして多少マニアックなプレイでも、千冬くんに「だめ?」っておねだりされたら多分私は断れない。ちょろい。

「そういえば可愛い系とセクシー系は結局どっちがいいの?」
「そ、れは……どっちも…?」
「えー、欲張りだなぁ」

まぁ実は既に両方買ってあるけど。それはまだ言わないでおこうかな。

「こんな話してたら本当に我慢できなくなるんだけど…」
「…我慢しなくていいよ」
「え?」
「ごめん嘘、あと少しだけ我慢して」
「いや、俺の期待返してよ」
「今日はお気に入りの下着じゃないからだめ」
「…ちなみに今日はどんなの?」
「えっ、それは…内緒…」
「だーめ」
「ちょっ、待って…!ぁっ…」
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